東大ら,原子層レベルの超伝導体の量子状態を解明

東京大学の研究グループは,京都大学,蘭フローニンゲン(Groningen)大学らと共同で,層状窒化物・塩化窒化ジルコニウム(ZrNCl)高品質単結晶の不純物の極めて少ない薄膜を作製し,さらにイオン液体を絶縁層として用いる電気二重層トランジスタ(EDLT)構造を形成することにより,ZrNCl表面に原子層レベルの厚みを持ち,乱れの極めて少ない究極の2次元超伝導が発現することを見出した(ニュースリリース)。

超伝導薄膜の研究は,薄膜作製の際に意図せずして含まれてしまう不純物や欠陥,非晶質性といった乱れのため,理想的な(乱れが極めて少ない)超伝導薄膜が本来持つ性質は明らかになっていなかった。とりわけ「理想的な2次元超伝導体は磁場中で本当に超伝導性を維持できるのか。」という疑問は物性物理学において長年の問題だった。

研究グループは,セラミック半導体の一種である層状窒化物・塩化窒化ジルコニウム(ZrNCl)の高品質な単結晶をスコッチテープ法により劈開し,厚さ20㎚ほどに薄膜化した後,その表面に電界効果トランジスタの一種であるEDLT構造を作製した。

ゲート電圧印加による電気抵抗の温度依存性の変化を見ると,ゲート電圧なしではZrNClは,温度の低下とともに抵抗値が増加する絶縁体的な振る舞いを示すのに対し,ゲート電圧の印加後はその上昇に伴って,電子がZrNClの表面に蓄積されるため,抵抗値が減少して金属的になり,さらには低温で超伝導体へと変化することを確認した。

このEDLT構造では,電界によって電子がZrNClの単結晶表面に蓄積しているため,蒸着等の従来の方法によって作製される超伝導薄膜に比べ,乱れの影響が極限まで少ない超極薄の超伝導状態が人工的に実現できる。研究では,臨界磁場(超伝導状態と常伝導状態の境界の磁場)の温度依存性を磁場下での詳細な温度-抵抗特性より測定し,ZrNCl表面に蓄積される電子の集団が,およそ原子層2層分に相当する2 ㎚程度の厚みしかない2次元超伝導体になることを実証した。

さらに,その磁場下における抵抗の振る舞いを解析し,精密な磁束相図(磁場-温度相図)を作成することに成功した。この磁束相図より,今回の研究手法で作製できる2次元超伝導体では,磁場下において超伝導状態は維持されず,代わりに量子ゆらぎによる磁束のトンネル運動によって記述される金属的状態が出現することが分かった。これは,乱れの少ない2次元超伝導に普遍的な現象と考えられるという。

今回の研究により,乱れが極めて少ない原子層程度の厚さを持つ2次元超伝導体は,磁場下においてその状態を維持できないという普遍的な性質が明らかになった。この結果は,先の問いに対して「乱れのない理想的な2次元超伝導体では磁場下において超伝導は実現しない」という1つの答えを提示するもの。

今後,この研究成果は,2次元超伝導体の本質的な性質を解明していく上で礎となるだけでなく,次世代のナノエレクトロニクスの材料の研究・開発していく上で重要な知見になるとしている。

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