筑波大,排熱を電気変換/蓄電するコイン型電池セルを実証

筑波大学の研究グループは,正極と負極に同一の層状酸化物NaxMO2(M:遷移金属)を用いたコイン型電池セル(電池型サーモセル)が,温度差印加に伴い熱電変換効果を示すことを実証した(ニュースリリース)。

最近,自然エネルギー源としての熱に注目が集まっている。熱電変換材料は固体の熱電気現象を利用して自然環境中の温度差を電力に変換することができる。現在,冷却用途や特殊環境における電源として実用化されている熱電変換材料にテルル化ビスマス(Bi2Te3)やテルル化鉛(PbTe)があるが,これらは希少で毒性のある元素を含んでいるため,高価で自然環境での使用は困難だった。

近年これと異なり,電極と電解液から構成されるサーモセルにおいて電気化学ゼーベック効果(温度差印加時に化学種A,Bの自由エネルギーの差に比例して電圧が生じる現象)の研究が進んでいる。すでに,プラチナ電極と[Fe(CN)6]4+(3+)酸化還元対が溶解した電解液による系で,Bi2Te3の約5倍の~1mV/Kのゼーベック係数が観測されているが,高価なプラチナが使われているため実用化は難かしい。

研究グループは,このプラチナ電極の代わりに,イオン二次電池で実用化されている層状酸化物を用いることで安価なサーモセルの作成を行ない,電気化学ゼーベック効果を初めて精密に評価した。評価されたゼーベック係数(-6.8~-29.7 μV/K)は低いものの,熱電変換のメカニズムを明らかにし,電極の改良によりさらに電圧が増大する可能性が示された。

特にコバルト酸ナトリウムを電極に用いた電池型サーモセルにおいては,通常のゼーベック効果とは異なり,電圧に時間依存性が見られることがわかった。これは温度差印加に伴い,ナトリウムイオンが電極活物質内で脱離・挿入反応を起こしていることにより説明される。

このサーモセルの製造にはイオン二次電池技術が適用できるため,安価な熱電変換素子の新たな候補として研究されることが期待される。実用化されれば,熱から変換された電気を化学エネルギーとして蓄積できるため,微小電力を必要とするセンサー等の電源として用いられる可能性があるという。

研究グループは今後,電気化学ゼーベック係数をより精密に評価するために,全固体電池やラミネート電池セルを用いて研究を行なう。このサーモセルは,通常のゼーベック効果と異なり,(1)電極材料と電解液の組み合わせによる複雑性,(2)電極が電圧を担い電解液が内部抵抗と熱伝導を担う,(3)電極の作製条件による性能のばらつき等によって影響を受けるため,これらの最適化を図る必要があるとしている。

関連記事「九大,フレキシブルな高性能n型熱電変換材料を開発」「阪大ら,ナノ構造化によりシリコンの熱電変換効率の3倍以上向上に成功」「首都大ら,一次元ナノ物質で構成されたバルク材料の熱電変換の制御に成功