カネカ,多層グラフェンをビームセンサとして商品化

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトにおいて,技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)は,組合員であるカネカが中心となって,これまで作製が困難だったナノ炭素材料である高品質多層グラフェンの開発に成功し,大型粒子加速器のビーム形状測定センサ材料として実装されることになった(ニュースリリース)。

先端の高エネルギー物理学,物質科学,生命科学などの分野で大きな役割を担っている粒子加速器は,素粒子生成実験に使用される大型,高エネルギーのものから,医療用途などの小型のものまで多種多様なものがある。

このような粒子加速器において,良質なビームを供給するためには,通過ビームの形状を破壊せずにリアルタイムに観測することが非常に重要となる。特に陽子や重イオンを用いる大型粒子加速器におけるビーム形状の測定法は重要な研究課題となっている。

ビーム形状を測定するセンサには以下の3点が求められている。
1.通過ビームに悪影響をほとんど及ぼさないこと
2.長期連続使用できる耐久性があること
3.検出感度が十分であること

グラファイト系の材料は,このような用途に好適であることが知られていたが,ビームセンサ用には大面積の極めて薄いグラファイト系薄膜が必要であり,従来は作製が非常に困難だった。また,従来品質のグラファイト系材料では,細いリボン状に切断加工する際に破断しやすい等の課題もあり,現状ではほとんどのビームセンサにはグラファイト系材料ではなく,耐久性に劣る金属材料が使われている。

このような背景のもと,TASCは特殊な高分子(芳香族ポリイミド)の薄膜を超高温(約3,000℃)の不活性ガス中で焼成する高分子焼成法の検討を進め,厚さ約2μmと非常に薄い原料芳香族ポリイミド膜の製造技術および最適な炭素化,グラファイト化プロセスを確立し,高品質多層グラフェンの開発に成功した。

これにより,上記〔1〕~〔3〕の条件を満足する多層グラフェンを安定的に製造できるようになった。また,開発された多層グラフェンは高い配向性を有し,他にも高い電気伝導度(≧24,000S/cm)や熱伝導度(≧1,900W/mK)などの極めて優れた特性を有することも分かった。

粒子加速器のビームセンサ材料は,幅1mm程度の多数の細線リボンが平行に並んだ簾状の形状にレーザ光線で切断加工され,端部を枠に貼り付けられた状態でセンサとして使用される。

それぞれの多層グラフェンリボンが,受けたビーム強度に応じて放出する2次電子の電荷量を検出する。これにより各リボンの位置におけるビーム強度が測定され,ビーム形状の観察ができる。

今回,KEKにおいてTASCで開発された高品質な多層グラフェンのビーム形状測定センサーとしての可能性を検討し,その結果,KEKにて大強度陽子ビーム用で実際に使用するセラミック枠上に,均一な細線幅の平坦な簾状のセンサを作製することができた。

今回のKEKの検討によって,開発された多層グラフェンはビームセンサ材料として,実際のビームラインに導入可能となりった。KEKでは本年秋以降にJ-PARCの大強度陽子加速器での本格的な利用を予定している。

また,カネカは,多層グラフェンを用いたビームセンサは世界中の加速器への導入が可能であり,医療用途などの小型加速器等へも広く用いられることが期待されることから,ビームセンサ等の用途として,厚さ約1μmの多層グラフェンを商品化し,海外へも展開していく。

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