新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は7月8日,NEDOが行なう中小・ベンチャー企業支援とその成果について,理事長の古川一夫氏(写真)がメディア向けに説明を行なった。
NEDOは1970年代に起きた2度の石油ショックを受け,新たなエネルギーを開発する先導役として1980年に誕生した。その役割として「エネルギー・地球環境問題の解決」「産業技術力の強化」そして「中小・ベンチャー企業に対する助成事業」が課せられている。
この助成事業を通じて,NEDOではこれまでに1,472件の資金助成を行なっており,そのうち13社は上場にまで漕ぎ着けている。この13社の時価総額は7,000憶円に達しているが,このうちロボットスーツで一躍名をはせたCYBERDYNEは,1社で約2,000憶円の時価総額を占める成果を上げている。
上場はしていないものの,光産業ではスペクトロニクスが助成事業の成功例とされている。同社は助成によって,熱影響やバリを低減した高品位加工を可能にする約50ピコ秒のパルスレーザを開発し,事業の中核を産み出すことができた。
なお,同社がNEDOから受けた助成事業は以下の4つで,その総額は約1億5,300万円となっている。
・イノベーション推進事業 平成20年度第1回(2008~2009)
ワンタッチ光学系付微細加工用レーザシステムの実用化開発 助成額: 約3,500万円
・イノベーション推進事業 平成22年度第1回(2010~2011)
太陽電池の発電効率を向上するピコ秒ファイバレーザの開発 助成額: 5,500万円
・イノベーション実用化ベンチャー支援事業(2013)
難加工・先端材料加工用深紫外ピコ秒パルスレーザの実用化開発 助成額: 約3,300万円
・平成25年度 イノベーション実用化ベンチャー支援事業(2014)
金属材料へのバリレス加工用ピコ秒パルスレーザの実用化開発 助成額: 約3,000万円
助成額合計:約1憶5,300万円
NEDOではベンチャー企業などが製品を開発するとき,その実現に至るまでに資金が枯渇してしまう所謂「死の谷」を乗り超えるため,資金的な助成のみならず,経営アドバイスや展示会,ビジネスマッチングなどを通じた支援をこれまでも行なってきた,
これらに加え,安倍政権が掲げる「日本再興戦略」を加速するためにさらなる開業率のアップを目指し,新たな支援策も昨年から始めている。
その一つに「研究開発型ベンチャー支援事業/SUI支援」がある。これは技術シーズを持った「技術者」を,起業家とするべく支援を行なうもの。資金援助と共に,カタライザーと呼ばれる起業経験者やベンチャーキャピタル社員,技術専門家,弁理士,弁護士などのスペシャリストからの指導を受けることができる。
いわばベンチャー企業を起業前の「ベンチャーの種」から育成しようという試みだが,昨年は5.8憶円の予算を組み,420件の公募から14件を採択した。初となるの試みだが,既にこの枠組みを卒業できるような成果を出す人も出てきているという。
また,ベンチャーキャピタル(VC)ごとシード期の研究開発ベンチャー(STS)を支援し,資金集めのハードルを下げる「研究開発型ベンチャー支援事業/VC-STS助成事業」も今年から始まっている。
これはまず,STSに適切な出資を行なうVCを認定し,そのVCが進めるSTSへの出資をNEDOが助成するもの。具体的には上限を7,000万円として出資の85%をNEDOが助成する(残りの15%はVCが出資)。この事業にNEDOは17.5憶円を確保している。
「中堅・中小企業への橋渡し研究開発促進事業」も同じく今年から始まった。これはシーズを持つ中小企業が,技術シーズを事業化に結ぶ「橋渡し機能」を持つ,国の研究機関や独立行政法人,公設試などの「橋渡し研究機関」と組んで申請するもの。
中小企業の技術力と,橋渡し研究機関の機能強化を目的としたもので,両者の共同研究に対して1億円を限度に助成が行なわれる。この事業に対する予算は26.2憶円となっている。
他にも国が指定するテーマに支援をする「革新的ものづくり産業創出連携促進事業」といった支援事業のほか,展示会を通じたビジネスマッチング,今年2月に設置されたオープンイノベーションに関する知見やノウハウの蓄積を図る「オープンイノベーション協議会」,産業革新機構(INCJ)との相互協力など,多彩なメニューを揃えてベンチャー,中小企業を支援する。
一方で,こうしたNEDOの支援事業に対し,「その時代のトレンドや担当者の好みなどで助成対象が決まってはいないか」「補正予算次第で助成プログラムが増減するのもいかがなものか」という声もぶつけられた。
これに対し古川理事長は,経産省の政策に則ってNEDOが動くという基本は変わらないとしながらも,昨年から「技術戦略研究センター」を設置し,専門家の意見を取り入れながら,NEDO自身でも技術の有用性を検討して予算化する方針を打ち出しており,個人の思惑で予算が動くことのないような体制を作ると共に,補正予算に関わらず継続できるプログラムにしていくとした。
古川氏はNEDOの助成事業について,まだ達成できていない部分だと前置きをしたうえで,「助成した企業が稼いで,助成金を法人税で返してもらうのが本当の姿」だとし,今後も優秀な技術持つ企業を積極的に助成したい考えを示した。