東芝,HDDの3次元磁気記録技術を実証

東芝社は,マイクロ波磁界を用いることによって,多層の磁性体の磁化の向きを,層を選択して反転させる新技術を実証した(ニュースリリース)。

磁気記録では,これまで記録ビット(磁石)を微細化することで単位面積あたりに蓄積できる情報量を高めてきた。しかし,微細化による高密度化では記録密度の技術的な限界に達しつつあり,新たな高密度化技術が求められていた。

一方,固体ストレージメモリであるNANDにおいては,メモリセルの微細化に加えて多層化して高密度化する技術の開発が行なわれている。磁気記録においても記録層を多層化する技術が模索されてきたが,微細化による高密度化の限界を超えた10テラビット/インチ2の記録密度に達することができる記録原理の技術がこれまでは存在していなかった。

異なる強磁性共鳴周波数を有する磁性体層を積層し,強磁性共鳴周波数に応じた周波数のマイクロ波磁界を印加すると,特定の磁性体層のみに磁化振動を励起することができる。磁化振動が励起された層は,磁化反転に必要なエネルギーが低減されるため(マイクロ波アシスト効果),層を選択した磁化反転が可能になる。

この技術はこれまでシミュレーションで予測されてきたが,今回の実験で初めて実証することができた。今回,同社が実証した磁化反転技術は,磁気記録に応用できる基本的な技術であり,記録層を多層化(3次元構造)したハードディスクや磁気メモリ,磁気テープなど高密度磁気記録製品への応用が期待されるもの。

同社は今後,微細な記録ビットを書き換えるため,局所的なマイクロ波磁界印加が可能なスピントルク発振素子の開発を進め,スピントルク発振素子を搭載可能な磁気ヘッドの開発を行なっていく。また,多層記録に最適化した記録媒体の開発を行ない,2025年頃を目標に3次元磁気記録の実現を目指すとしている。

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