東芝,量子暗号通信システムの実証試験の開始

東芝は,盗聴が理論上不可能な量子暗号通信システムにより,ゲノム解析データの通信を行なう実証試験を8月31日から開始する(ニュースリリース)。実データを用いた量子暗号通信システムの実証試験は,国内初。

実証試験では,東芝ライフサイエンス解析センターにおいて解析したゲノム解析データを,量子暗号通信システムにより暗号化し,7km先の東北大学 東北メディカル・メガバンク機構まで送信する。実証期間は,2017年8月までの2年間で,長期間の運用における通信速度の安定性や天候,温度や光ファイバの状態など環境条件の影響度などを検証する。

量子暗号通信は,光子の量子力学的な性質を利用することにより,盗聴されることなく,通信の両端で暗号鍵を共有できる通信手段。通常の光通信では,大量の光子を使い1ビットのデータを送信しているため,数個の光子を盗まれても盗聴に気づくことはない。

量子暗号通信では,光子1個に1ビットのデータを載せて送るため,盗聴があると光子の状態が変化し,確実に盗聴を検知することができる。盗聴されていないことが保証された暗号鍵を,次々に更新しながら暗号化することにより,通信データの盗聴は理論上不可能となる。

同社は,2003年から量子暗号通信に関する基礎研究を開始し,2010年には欧州研究所において,世界最高速度毎秒1Mビットの量子暗号鍵送信を達成した。2014年には,既設の光ファイバを用いた34日間の連続安定稼働に成功している。

同社では今回の実証試験で得た成果をもとに,機密情報や個人情報などを扱う官公庁や医療機関での利用を想定し,量子暗号通信システムの5年以内の実用化を目指すとしている。

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