東大,ガラス転移の構造的起源に新たな発見

東京大学の研究グループは,結晶化を阻害するために剛体円盤の大きさにばらつきを与えた系である多分散剛体円盤液体において,ガラス転移点に近づくにつれ過冷却液体の中に潜む秩序構造のゆらぎが発達し,それがダイナミクスの空間的なゆらぎを支配していることを発見した(ニュースリリース)。

融点以下の過冷却液体において,温度の低下とともに液体のダイナミクスが急激かつ連続的に遅くなり,ついには固体化するガラス転移現象の物理的起源は,長年の研究にも関わらず,未解明のまま難問として残っている。

1つの有力な機構として,液体の中になんらかの構造が発達し,その大きさの増大が遅いダイナミクスを引き起こすという考え方がある。しかしながら,液体の構造の乱雑性のため,そのような構造をあぶり出すことは極めて困難だった。

そのような液体の構造ゆらぎを検出する有力な方法として,液体の粒子をランダムにピン留めしその平均間隔を狭めていった時に,液体粒子の動きが凍結されはじめる長さを見積もり,それにより構造ゆらぎの特徴的大きさをあぶりだすという方法(以下粒子ピン留め法)が最近提案された。この方法は,構造の種類に依存せず,遅いダイナミクスの鍵となる構造の大きさを普遍的に抽出できる方法として大きな注目を集めている。

研究グループは,この方法では液体粒子の2体相関しか取り出せず,ガラス転移に重要な多体的な構造相関を見ることができないこと,また,剛体円盤液体においては,この方法で抽出不可能なパッキングに起因した方向相関が液体のダイナミクスを支配していることを明らかにした。

この成果について研究グループは,ガラス転移に伴う遅いダイナミクスの起源が,液体の多体相関にもとづく構造化にあるという同研究グループが主張してきたガラス転移のメカニズムを強く示唆するだけでなく,これまで乱雑かつ均質と考えられてき液体相の理解に新たな視点を提供し,過冷却状態にある液体についてより深い理解をもたらすものだとしている。

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