千葉大学,東京経済大学,愛媛大学,東京大学,文教大学による研究グループは,理化学研究所のスーパーコンピュータ「京(けい)」 と,国立天文台の「アテルイ」を用いた世界最大規模の宇宙の構造形成シミュレーションを行ない,宇宙初期から現在にいたる約138億年のダークマターの構造形成,進化過程を従来よりも格段に良い精度で明らかにした(ニュースリリース)。
宇宙には,われわれが直接見ている物質のほかに,ダークマターと呼ばれる物質が質量で5倍程度存在するといわれている。ダークマターは重力でのみ相互作用し,宇宙の重力的な構造形成,進化の主要な役割を果たしている。そして重力によりダークマターハロー(以下,ハロー)とよばれる巨大な構造をつくっており,その大きさは,ハロー内部に存在する,光り輝く銀河のおよそ10倍にもなると考えられている。
ハローは合体を繰り返すことで大きく成長し,階層的に構造を形成しながら,ハローの中でガスが冷えて収縮して星が誕生し,銀河や銀河団などの巨大な天体が形成していったと考えられている。またハローの合体に続いてハロー内部の銀河が合体すると,大量のガスが銀河中心に存在するブラックホールに供給され,ブラックホールが成長するとともに,活動銀河核として光り輝いたと考えられている。
ハローの空間分布をシミュレーションから明らかにすることで,銀河や活動銀河核の空間分布も推定することができる。ところが,生まれて間もない宇宙では,銀河や活動銀河核を宿すような大きいハローは多くない。ハローの進化を解明するためには,より広大な宇宙空間をシミュレーションする必要があるが,これまでのシミュレーションでは,用いる粒子数が不足していて,ハローの構造を理解するには不十分だった。
今回,「京(けい)」と「アテルイ」によるシミュレーション結果から,ハローを検出し,ハローの階層的構造形成史をモデル化している。そのデータはおよそ1ペタバイトにもおよぶ。これほどのビッグデータになると,解析するだけでもスーパーコンピュータの利用が欠かせない。
そこで,最大規模のシミュレーションの他に,空間サイズやひとつのシミュレーションダークマター粒子の大きさが異なる複数のシミュレーションを行なった。そうすることで,質量スケールに換算しておよそ8桁にもおよぶ範囲でのハローの構造形成史をモデル化することが可能となった。これにより,初期宇宙から現在にわたって,矮小銀河から銀河団におよぶ多種多様な天体の形成,進化過程,そして空間分布を探ることができるようになった。
シミュレーションではダークマター分布の重力的な進化のみ解き,ハローの階層的構造形成史をモデル化した。現在,シミュレーションから得られたハローの進化史の上で,準解析的銀河形成モデルという手法を用いてバリオンの進化を解いている。そして我々が目にする銀河や活動銀河核などの大規模天体サーベイ観測と直接比較可能な,様々な天体の疑似カタログを整備し,公開していくとしている。
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