浜松ホトニクス,LDを1/8以下の狭いスペクトル幅で発振するレーザ共振器を開発

浜松ホトニクスは2個の高出力半導体レーザ(LD)スタックを,ストライプミラーと単一面型VBG(Volume Bragg Grating)を用いて同時に波長制御し,0.31nm以下という狭いスペクトル幅で発振するレーザ共振器の開発に成功した(ニュースリリース)。この成果は4月24日まで開催されたレーザに関する国際会議「OPIC(OPTICS&PHOTONICS International Congress)2015」で口頭発表された。

VBGとは,光誘起屈折率(フォトリフラクティブ)効果があるガラスの内部で,わずかな屈折率が周期的に変化し,特定の方向に光が強く回折する格子を形成した光学素子。特定の角度では強い光の反射が起こるが,その角度以外ではほとんど光を反射しない。LD の縦横モードを改善できるため,波長安定と狭帯域が実現する。

今回開発したレーザ共振器は,高効率で高強度を実現すると同時に,駆動電流や動作温度の影響を受けない安定動作を実現するもので,LD バーのビームをストライプミラーに効率よく入射させるために,コリメートレンズを LD バーに接着するときに,ビームがストライプに対応して平行になるように微調整を行なうことで実現した。これにより,LD バーごとに VBG を取り付けることなく 1 枚の VBG で LD スタックに対応できるようになった。

また,VBG を1 枚の単一面型にすることで,製造コストを大幅に削減できるとする。さらにストライプミラーを用いて2個のLDスタックを合波することで出力も倍増。これにより,全固体レーザをはじめ,アルカリ蒸気レーザなどのガスレーザの励起用LD 光源の高効率化と高性能化による大出力化が期待できるとしている。

実験では,共振に最適設計した VBG を用いて,LD の駆動電流が 100A の時,合波した
LD スタックのスペクトル幅が 2.59 nm から 0.31 nm(8.4 分の 1)に減少し,出力効率は 80.4%でピークパワーは 581Wだった。また,スペクトル幅が狭くなったことにより,スペクトルパワー密度は 279W/nm から 1874W/nm まで 6.7 倍に増大。さらに,駆動電流の全
範囲において,LD スタックの中心波長の変化はほとんど見られず,安定なスペクトルが得
られた。

LD 素子のビームは発光点から垂直方向に 30°から 40°,水平方向に 7°から 10°に広がってしまうため,通常は集光レンズを用いて制御することが必要となるが,実験では,LD スタック 1 の各発光点から出射するビームの垂直方向の広がり角度をコリメートレンズで 0.34°に,同 2 を 0.44°にした。

両スタックに配置された 5 段の LD バーそれぞれのビームを,コリメートレンズの接着位置を調整することでほぼ平行光に制御し,ストライプミラーにより合波して,広がり角度 1.01°を得た。そのビームを 1 枚の単一面型 VBG に照射し,LD ビームが VBG で効率よく反射され,出射した LD バーに戻る外部共振器構造を形成した。

今後は発振波長885nm帯のLDスタックを開発することで,固体レーザの高効率化と高性能化を図り,大出力レーザの開発を進めるとしている。

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