岡山大ら,細胞膜における電気の流れを光で自在に制御する人工タンパク質を創成

岡山大学,名古屋工業大学らの共同研究グループは,電気信号を制御するタンパク質の機能を人工的に創成することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

脳神経活動は電気の流れ(電位)により制御されているなど,電気は人を含む全ての生命活動の根源ともいえる。体内で電位を制御するタンパク質は,イオン輸送体と呼ばれ,全ての生物には,イオンを濃度勾配に逆らって運ぶタンパク質(イオンポンプ)と濃度勾配に従って運ぶタンパク質(イオンチャネル)が存在するが,これまで,人工的にイオン輸送タンパク質の創成に成功した例はなかった。

多くの生物の細胞膜には,光によって活動するイオンポンプとイオンチャネルの機能を有するレチナールタンパクが存在する。研究グループは,レチナールタンパク質のポンプとチャネルの構造を比較し,光を吸収する発色団(光吸収性分子)部分の大きな違いに着目。両機能の発色団構造を一致させるために,イオンポンプ内の3つのアミノ酸残基に異なるアミノ酸を導入した。

導入した人工分子を大腸菌とアフリカツメガエルの卵母細胞(オーサイト)に発現させたところ,膜内外にかかる電位差に依存した水素イオン(プロトン)の移動が両実験で観測され,イオンポンプからイオンチャネルを創成することに成功した。

また,創成した人工分子の構造的・分光学的特徴を調べたところ,天然の光駆動イオンチャネルと類似した極大吸収波長,光反応サイクル,荷電性残基の特徴を示すことがわかり,機能のみならず,様々な性質もチャネル型へと変換されたことが確認された。このように,これまで難しいとされてきた光駆動のイオンチャネルの創成に世界で初めて成功し,ポンプとチャネルの違いが発色団のわずかな構造的違いにより制御されていることを明らかにした。

近年,レチナールタンパク質を用いて,光で脳神経ネットワークの全容を解明する国家プロジェクトが米国で進行している(光遺伝学:オプトジェネティクス)。この研究で作成した分子により,これまでONもしくはOFFの個別制御に限られてきた光神経活動制御を,ON/OFF同時制御に拡張させることが可能となる。

また,この分子は,遺伝子工学・タンパク質工学の適用に優れた大腸菌において大量に調製することが可能であるため,これまで難しかった機能の向上や改変が簡便化さ、,新たな機能性分子の創成における基盤分子となることが期待されるという。

イオンポンプやイオンチャネルを含む膜タンパク質は,薬の7割程度がターゲットとする創薬上極めて重要なターゲット。研究グループでは,今回の研究成果を用いた機能変換を通じて膜タンパク質の機能を阻害・促進することで,うつ病をはじめとする神経疾患への適用や新薬の開発につながるとしている。

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