埼玉大学の研究グループは,情報セキュリティ分野や大規模数値シミュレーション分野に必要不可欠な物理乱数生成の高速化に関する研究を行ない,結合された半導体レーザのカオス現象を用いることで,1秒間に1兆2000億個(毎秒1.2テラビット)の生成速度での高速な物理乱数生成の実証実験に成功した(ニュースリリース)。
ランダムな数列である乱数は情報セキュリティに必要不可欠な基盤技術だが,コンピュータを用いた擬似乱数の場合,盗聴者による暗号鍵の予測が可能になる可能性がある。そこで自然現象を用いて生成された物理乱数が情報セキュリティに必要とされているが,半導体の熱雑音を用いた従来の方式では生成速度が遅いのが欠点だった。
また天気予報や地震予測などの自然災害予測分野や,設計工学のための大規模数値シミュレーション分野においてもランダム性の高い大量の乱数が用いられているが,予測精度や設計精度の向上のために,高速な物理乱数生成方式の開発の必要性が急速に高まっている。
研究では,半導体レーザの高速性およびカオスの不規則性を利用することで,1秒間に1兆2000億個(毎秒1.2テラビット)の生成速度を有する物理乱数生成の実証実験に成功した。3つの半導体レーザを一方向に結合することで,半導体レーザから出力されるカオスの不規則振動を高速化する技術を開発した。
また複数の論理演算を組み合わせたマルチビット乱数生成方式を新たに開発し,生成されたカオス信号へ適用することで,高速乱数の生成を行なった。マルチビット乱数生成方式は,2つのカオス時間波形を8ビットで量子化し,1秒間に100ギガ点を取得して,乱数生成のために複数の論理演算を行なう。最終的に下位6ビットを取り出すことで,毎秒1.2テラビットの乱数生成を実現する。
この手法で得られた乱数は国際標準の統計検定に合格し,十分なランダム性が保障された。この研究における物理乱数の生成速度は,従来法と比べて約3倍向上しており,1秒間に1兆個(毎秒1テラビット)の生成速度の壁を初めて突破した。