名古屋大学の研究グループは,開発したプラズマ照射溶液(プラズマ活性溶液と呼ぶ)を用いて加齢黄斑変性の新たな治療法を開発した(ニュースリリース)。
近年,大気圧下で生体に近い温度でプラズマ(非平衡大気圧プラズマ)を用いた医療研究が盛んに行なわれている。名古屋大学ではこれまでに独自に開発した超高密度プラズマ発生装置を用いた癌治療研究,特にプラズマ活性溶液による卵巣がん,脳腫瘍,胃がんの治療研究において数多くの研究成果を挙げてきた。
加齢黄斑変性は脈絡膜から異常な脈絡膜新生血管(CNV)を生じることにより偏視,視力低下,失明などに至ることがある疾患であり,これまでも同大では,放射線治療法,光線力学的療法,抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体注射療法などの治療を行ない,黄斑疾患の治療成績を向上させてきた。
研究グループは今回,プラズマ活性溶液の硝子体注射療法による加齢黄斑変性の治療という新しい治療法を考案した。独自に開発した超高密度プラズマ装置を用いて,リン酸緩衝生理食塩水にプラズマ照射しプラズマ活性溶液(PAM)を作成した。In vitroの実験系を用いて,PAMはヒト網膜内皮細胞のチューブ形成を阻害することが分かった。
次にPAMの硝子体注射療法はレーザによりマウスの眼に人工的に誘導された脈絡膜新生血管(CNV)を抑制することが分かった。更に,PAMはCNVの原因となっている細胞にアポトーシスを誘導していることが分かった。また,PAMは既存の網膜血管には影響を与えないことが分かった。更に眼底画像や網膜電図の解析から,PAMは網膜毒性を引き起こさないことが分かった。
これらの結果から,PAMの硝子体注射療法は加齢黄斑変性の新規治療法として有望であることが分かったが,臨床応用に向けて更なる研究開発が必要とされている。研究グループはまず,PAMによるCNV抑制の作用機序の解明を行なう必要があるとしている。また,PAMの硝子体注射療法の更なる安全性試験を重ねる必要や,PAMの硝子体注射療法による副作用を最低限に抑えるためにPAMの投与量などの最適化も必要だという。今後,PAMの硝子体注射療法の臨床応用に向けて,更なるPAMの開発とPAMによる加齢黄斑変性治療法の開発を進めていく予定。
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