JAISTら,ガラスになる液体とならない液体の原子・電子構造の違いを解明

科学研究センター(JASRI),フィンランド タンペレ工科大学,宇宙航空研究開発機構(JAXA),学習院大学,東京大学,山形大学からなる国際共同研究チームは,大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光高エネルギーX線と,フィンランドIT科学センター,ドイツのユーリッヒ総合研究機構,JAISTそれぞれのスーパーコンピュータを用いた大規模コンピュータシミュレーションにより,ガラスにならない液体の原子配列と電子状態を調べ,これらが非常に乱れているために「極めて壊れやすい=ガラスにならない」液体であることを世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。

ガラスは,通常,原料を高温で融体(液体)にした後,急冷して作製するが,どのような物質でもガラスになるわけではない。ガラスになる液体とガラスにならない液体では原子配列に違いがあることが以前から指摘されていたが,その違いは原子・電子レベルで明らかにすることは困難であり,21世紀に入った現在でも,ガラスの構造科学における大きな謎とされてきた。

国際共同研究チームは,この謎を解明するために,ガラスにならない物質のひとつとして知られている二酸化ジルコニウム(ZrO2)に注目し,その液体の構造解析を試みた。ところがZrO2の融点は2715℃と酸化物中でも特に高いため,融解することすら難しく,一般的な構造解析手法を用いることはできない。

そこで今回,国際共同研究チームは,SPring-8の高エネルギーX線回折ビームラインに無容器ガス浮遊法を組み込んだ実験装置を開発し,2800℃という超高温での液体構造解析に成功した。 この装置はCO2ガスレーザで試料を加熱・融解し,円錐ノズルから吹き出るガスにより浮遊し,そこに高エネルギー放射光X線を当て,回折実験を行なうもの。 得られた実験データを元にスーパーコンピュータを用いた大規模理論計算を行なった結果,ZrO2液体の回折パターンにはガラスになる液体に共通する特徴的なピークが現れないことを発見した。

さらに,ジルコニウムと酸素からなる構造ユニットの原子配列が乱れ電子が動きやすい状態にあること,そしてその構造ユニットの寿命が200フェムト秒程度と非常に短いことを突き止めた。そこから,「ガラスにならない液体」がガラスにならないのは,秩序を失った「極めて壊れやすい液体」となっているため,すなわちガラスになる液体には秩序が必要であると結論づけた。

今回の発見は,液体の原子・電子構造とガラスのなりやすさとの関係を結びつけたもので,ガラスの構造科学の大きな謎のひとつを解決するもの。さらに研究グループは,この研究で得られた乱れた液体構造に関する原子・電子レベルでの理解は,超高屈折率ガラスや新規セラミックスのような革新的材料の開発への道筋を示す重要な知見になるとしている。

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