東京大学らの研究チームは,すばる望遠鏡の広視野カメラ「Suprime-Cam」を用いて,すばる望遠鏡にとって最も遠い宇宙をこれまでにない感度で探査し,ビッグバンからわずか7億年後の宇宙にある銀河を7個発見した(ニュースリリース)。
この数は予想よりもとても少なく,これは銀河の数が急に増えたことを示唆している。今回の観測で,ビッグバン間もない頃の宇宙でライマンα輝線(水素原子から発せられる,121.6nmの紫外線。ライマンα輝線で明るく見える銀河のことを「ライマンα輝線銀河(LAE銀河)」と呼ぶ)を出す銀河が突然姿を現した様子が,初めて描き出された。
138億年前にビッグバンで生まれた宇宙は,プラズマ状態の陽子と電子で満たされていた。それ以降宇宙の温度は下がり続け,ビッグバンから約40万年後に陽子と電子が結びついて中性水素へと変わった。これを宇宙の晴れ上がりと呼ぶ。
これによってできた中性水素は,宇宙にかかる「霧」のようになった。その後星や銀河が生まれ始めると,それらから放たれる紫外線によって中性水素が再び陽子と電子に分かれ,中性水素の「霧」が晴れていったと考えられている。
このように星や銀河ができることで「霧」が晴れる現象のことを宇宙再電離と呼ぶ。宇宙再電離はビッグバンから約10億年後(今から約128億年前)に終わったことは分かっているが,それがいつ始まりどのように進んだかは大きな謎の一つだった。
宇宙再電離を調べるために,研究チームは約131億光年先の宇宙にあるライマンα輝線銀河(LAE銀河)を探した。また,これより遠い銀河がハッブル望遠鏡によって見つかっているが,すばる望遠鏡にとってはこの131億光年という距離は最も遠いもので,ビッグバンからわずか7億年後の宇宙を見ていることになる。
今回研究チームは,暗いLAE銀河を効率よく見つけられる特別なフィルタを作った。このフィルタをすばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam」に取り付け,すばる望遠鏡にとって最長に近い106時間の観測を行なうことで,これまでになく高い感度にまで達することができたという。
今回,ビッグバンから約7~8億年後(今から130~131億年前)にLAE銀河が突然明るくなっている様子が分かった。宇宙再電離のまっただ中にあるLAE銀河は,中性水素の「霧」で隠されて,実際よりも暗く見える。研究チームは今回の観測で,ビッグバンから約7億年後に宇宙の「霧」が突然晴れることでLAE銀河が急に現れた可能性を初めて示したとしている。
関連記事「KEKら,宇宙マイクロ波背景放射の偏光観測から重力レンズによる偏光パターンを測定」「理研ら,金やウランなどの重い元素は中性子星の合体で作られた可能性が高いことを発見」「東大,恒星表面の鉄濃度が周辺ガスにより増加することを証明」