国立環境研究所,レーザを用いて洋上油井・ガス井からのメタン排出を確認する技術を開発

国立環境研究所は,船舶からのレーザを利用した高速分析法であるキャビティリングダウン分光法(Cavity Ring-down Spectroscopy,CRDS)観測により,マレーシアやインドネシアの沖合で高い温室効果を持つガスであるメタンの漏出が起こっていることを確認した(ニュースリリース)。

メタンは,二酸化炭素(CO2)に次いで2番目に大きい温室効果を持つガスとして知られている。また,グローバルな対流圏オゾンの濃度を維持するのにも寄与しており,直接的・間接的に気候変動や大気質に関与している。一方,大気中のメタン濃度は産業革命以前の濃度レベルから増え続けているが,長期変化傾向の要因は十分に解明できていない。一方,アマゾンや南アジアなどで,これまで認識されていないメタンの発生源が見つかっており,メタンの発生源についての理解がまだ不十分であること,観測の空白域であるアジア地域におけるメタン観測が必要であることが指摘されてきた。

メタンは大気中寿命が短いために濃度分布が不均一になりやすい特徴があり,また発生源の分布も非一様であるため,適切な対策の策定に資する科学的な知見を得るには,高い空間分解能で,かつ地域的・世界的に均一な観測を行なうことが必要。しかしながら,SLCPの濃度分布や変動要因の把握,関連する前駆物質の発生源の分布に関する知見は断片的だった。特に,海洋上の排出源は把握することが困難で,現在広く行なわれている地上観測所におけるモニタリングからは検出できなかった。

そこで国立環境研究所では,海運会社の協力のもと,外洋における清浄大気を観測できる日本-オセアニア航路と,アジア沿海域における地域的汚染大気を観測できる日本-東南アジア航路においてSLCPの長期観測を行なっている。二つの特徴的な船舶観測の対比により,東アジア地域からの排出量を把握することを目的としている。

当該船舶の観測室に,CRDSを設置し,二酸化炭素,メタンなどの連続観測を複数回にわたって行なった。そのデータを用いて排出量を推計し,既存のインベントリや衛星観測と比較・解析したところ,東南アジア地域において顕著なメタンの濃度増大(ピーク)が多く観測された。

観測されたメタンの排出源を明らかにするため,米国海洋大気庁による米国空軍防御気象衛星プロジェクト・Operational Linescan System(DMSP/OLS)センサで観測された夜間光(night-light)のデータを調べたところ,油井・ガス井由来のガス燃焼(ガスフレア)のホットスポットが存在することが分かった。

メタンはガスフレアやベント(排気),リーク(漏れ),蒸発・飛散といった漏えい排出物として,CO2とともに油井・ガス井から排出されることから,観測されたメタンの濃度増大はこの海域における洋上油井・ガス井からの排出であったことが示唆された。

油井・ガス井からの排出は人為的対策が可能であり,その排出抑制は大きな温暖化対策効果を有すると考えられることから,今回開発した観測手法のさらなる展開,および,衛星観測や航空機観測等とのマッチングで推計の定量性が上がれば,当該地域のメタン漏出が一般的な技術による程度のものなのか,あるいは,対策技術の高い先進国の油井・ガス井より漏出が多いかどうかを知ることができ,適切な排出抑制対策が行われているかどうかを判断する良い指標になるとしている。

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