京都大学の研究グループは,高温超伝導体を用いたテラヘルツ光源における温度分布の可視化と制御に成功し,温度分布とテラヘルツ発振強度の関係をはじめて明らかにした(ニュースリリース)。
テラヘルツ波は,電波のような高い透過性と光のように優れた空間分解能をあわせ持つという特徴があり,医療診断,セキュリティ検査,タンパク質の構造解析,高速無線通信,宇宙観測など,幅広い分野への応用が期待されている。
テラヘルツ波の連続光源の候補として,高温超伝導体のナノ構造を利用した超伝導テラヘルツ光源が2007年に発明され,それ以降,光源の実用化を目指した研究が世界中で行なわれてきた。超伝導テラヘルツ光源は,複雑かつ高精度な調整を必要とする分子線エピタキシー技術を用いて作製される従来のテラヘルツ光源と異なり,物質本来の結晶構造を基盤としたシンプルな構造のため耐久性・量産性に強みを持つ。
また,動作温度は市販の冷凍機で容易に到達できる温度のため,ポータブル応用も提案されている。単色性に優れているので,特定の化学物質などの同定にも用いることができる。原理的にはレーザのような高いコヒーレンスを有しているため,高速無線通信への応用も期待できる。超伝導テラヘルツ光源が実用化されれば,これまで半導体素子を中心に発展してきたテラヘルツ技術に革命的な進歩をもたらすことが予想される。
しかし一方で,超伝導テラヘルツ光源は,莫大なジュール熱による温度上昇が超伝導状態を破壊し,結果として光源の出力が低下してしまうという技術的問題が指摘されていた。
研究グループは今回,極低温環境でも有効な温度イメージング装置を構築し,微小サイズの光源表面における特徴的な温度分布の可視化に成功した。そして温度分布とテラヘルツ発振強度の比較ができる特殊な構造を有した光源を用いて実験を行ない,過剰な温度上昇を抑制することでテラヘルツ発振の高出力化を実証した。さらに,得られた結果を数値シミュレーション解析することで,高出力テラヘルツ光源の実現につながる効率的な冷却方法を提案した。
今回得られた知見は,超伝導テラヘルツ光源の高出力化・高機能化につながる直接的な手がかりであるという点で国際的にも高く評価されているという。また,今回提案された効率的な冷却方法は,超伝導テラヘルツ光源のみならず,あらゆる電子デバイスが直面する発熱の問題にも適用できるという意味で画期的だとしている。
信頼できるテラヘルツ光源の登場は社会利便性の向上だけでなく,さまざまな研究分野の同時発展を促進する可能性を有しているため,研究グループは今回の成果は非常に重要であるとしている。
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