京都大学,米Stanford大学らの研究グループは,マイクロ流体技術を用いた網羅的・高速・高感度のDNA分析技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
開発した技術はマイクロ流路(1mm以下の代表寸法を有する微小な流路)における等速電気泳動を用いて,ターゲットDNA分子とその捕捉分子で修飾したマイクロビーズを共濃縮し,反応速度を大幅に向上するもの。この反応速度の向上により,約20分の反応で20時間の反応と同等の検出感度を達成する事ができる。反応に必要な溶液は一般的な水溶性のバッファのみであり,安全性も高い。
また,30分の反応時間を用いた結果と比較すると約5倍の計測感度を得る事が可能。さらに,同一サンプル内に存在する複数のターゲットを同時に定量することが可能であり,今後この技術を基にして高速かつ網羅的核酸解析が可能になることが期待される。
等速電気泳動とは,電気泳動移動度の異なるイオンを含む二種のバッファをマイクロ流路内に並べ,そこに直流の電場を印可する事で二種のバッファイオンの界面に中間の電気泳動移動度を有するイオン(ここではターゲットDNA分子およびマイクロビーズ)を濃縮できる技術。
研究グループは,DNAのハイブリダイゼーションの速度が濃度に依存する事に着目して,等速電気泳動の濃縮効果により反応の高速化を実現した。さらにこの反応の高速化を,特にマイクロビーズを利用したマルチプレクシング分析技術(同一サンプル内の複数のターゲットを同時に分析する技術)へと拡張した。
また,ターゲット分子とマイクロビーズ表面の捕捉分子の反応を記述する理論解析モデルも確立しており,実用化の際に必要となる設計技術への応用が期待できる。
現在のシステムはマイクロ流路を用いた反応の後,特別なフローサイトメータを用いて反応量の検出を行なっている。フローサイトメータを用いた検出では,ある一定数以上のマイクロビーズが必要である一方で,検出感度はより少量である方が高くなる。研究グループでは今後,少量のマイクロビーズを用いた反応・検出システムを確立し,さらなる高感度化を達成するとしている。
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