自然科学研究機構分子科学研究所の研究グループは電気通信大学,名古屋大学,高輝度光科学研究センター(JASRI)らの研究グループと共同で,大型放射光施設SPring-8で硬X線を用いる雰囲気制御型光電子分光装置を開発し,世界に先駆けて固体高分子形燃料電池における燃料電池動作中の触媒電極の硬X線光電子分光その場観測に成功した(ニュースリリース)。
燃料電池は次世代のエネルギー源として自動車などへの実用化が進められているが,発電性能の向上,またカソード(正極)における高価な白金触媒の使用量の低減などの解決すべき課題が山積している。その解決の手がかりとして,燃料電池動作中の電極内にある白金の電子状態を知ることが重要だが,その測定は難しく限られた手法でしか測定できなかった。
物質の電子状態の測定において,X線を試料に当てて出てきた光電子のエネルギーを測定する光電子分光法は非常に強力な手法だが,従来の光電子分光測定では試料を高真空に保つ必要があり,反応ガスが存在する動作中の燃料電池電極の測定は困難だった。
そこで研究グループは,3,000Paの雰囲気ガス圧下でも光電子分光測定が可能な「雰囲気制御型硬X線光電子分光装置」を開発し,SPring-8の電通大/NEDO「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン」(BL36XU)内に設置した。
この装置は,エネルギーの高い硬X線を用いて透過性の高い光電子を発生させることで,電解質中に埋もれた触媒からの光電子を検出できるようにし,固体高分子形燃料電池が動く様子をそのまま測定できるというもの。
さらに,この装置用に実際に燃料電池として動作する固体高分子形燃料電池型の測定セルを新たに開発し,燃料電池として動作中の電極触媒の硬X線光電子分光測定に世界で初めて成功した。この測定により,燃料電池の電極間に印加された電圧に対応して電極中の白金ナノ粒子の電子状態が変化する様子を観測することができた。
これは,測定が難しかった燃料電池動作中の電極の電子状態を測定することが可能になったことを示すもの。研究グループでは今後,この装置により様々な燃料電池電極の動作中の状態が観測され,その結果が電池電極や触媒材料の開発に役立つことを期待している。
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