東北大,フレスノイトが結晶とガラスの両状態で低温過剰比熱の特徴が類似することを発見

東北大学の研究グループは,フレスノイトと呼ばれるケイ酸塩鉱物と同じ組成のガラスの低温比熱測定を実施し,結晶とガラスの異なる状態間であっても低温過剰比熱の特徴が極めて類似していることを見出した(ニュースリリース)。

ガラスは室温で固化しているにも関わらず,その微視的構造は液体のように不規則であり,この点で規則構造を有する結晶と決定的に異なる。そのため,ガラスの物理特性の理解は現在でも途上段階にあり,その解明のために精力的な物性研究がなされている。

ガラスの特質の一つにボソンピークがある。これは非弾性散乱スペクトルの低波数領域において出現するが,低温比熱測定によってもブロードな過剰比熱として観測される。これらは非晶質(ランダム)構造に由来する過剰な振動状態密度(Vibrational Density Of State; VDOS)が原因と考えられている。ボソンピークは1950年代より知られているが,その起源については今なお議論がなされており,実験およびシミュレーションによる現象解明が試みられている。

ボソンピークは過剰なVDOSが原因とされていることから,研究グループは原子振動に関連する熱物性である比熱に着目した。ケイ酸塩鉱物であるフレスノイト(Ba2TiSi2O8)と同じ化学組成を持つガラスを合成し,熱処理による結晶化の前後における比熱を比較することで,ボソンピークの振る舞いを調査した。

その結果,SiO2を主成分とするフレスノイトにおいて,ガラス相(結晶化前)と結晶相(結晶化後)両方で10–20 Kの温度領域でブロードなピークが観測され,これらピークは類似する特徴を有することを発見した。

一方で,シリカ(SiO2)ガラスはSiO4四面体のみで構成され,ネットワーク構造がランダムであることを除けばSiO2結晶(石英・クリストバライト)と良く似た性質を示す。しかし組成や結晶構造が複雑なフレスノイトに比べて,SiO2系は単成分酸化物で短距離構造が類似するにも関わらず,低温で見られる比熱のピークの特徴(大きさ・極大温度)は大きく異なる。

シリカガラスはSiO2結晶と同様にSiO4四面体で構成されているが,それら物質間の密度差が大きいことが知られている(石英:約6%,クリストバライト:約20%)。一方で,フレスノイト組成を有するガラスの構造は対応する結晶と類似しており,さらにガラスと結晶の密度差はシリカガラスの場合と比較してとても小さいことが報告されている(約3.5%)。

この研究結果は,非弾性散乱スペクトルや低温比熱で観測される過剰なVDOSはガラスネットワークの結合様式など近距離構造よりも,原子の充填様式などの中距離的構造を反映することを強く示唆するもの。

研究グループは今回,ガラスの低温比熱について新たな知見を得たと同時に,固体物理学のトピックの一つとされるボソンピークの起源解明に重要な指針を与えるものだとしている。さらに,結晶と同じ組成を有するガラスのVDOSをより詳細に検討することで,ガラスの熱振動エネルギーの研究および伝熱・蓄熱材料への開発にも展開できると期待している。

関連記事「産総研ら,平面度λ/100の超高精度平面ガラス基板を開発