九州大学大学院工学研究院/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の研究グループは,半導体性カーボンナノチューブ(CNT)を選択的に高濃度で分離したのち,ナノチューブから綺麗に剥がせる可溶化剤を開発した(ニュースリリース)。
次世代電子デバイスの材料として注目される半導体性CNTの分離は,従来,大量の界面活性剤を用いる密度勾配分離法や電気泳動法などが報告されているが,一般に,可溶化剤の完全な除去は簡単ではなかった。
研究グループは,可逆的に「形成—分解」が可能で,半導体性CNTに対して選択分離能をもつ「超分子金属錯体型可溶化剤」を分子設計,合成した。
具体的には,「ダイナミック超分子配位化学」に基づいて,「結合生成—解離」が可逆的に制御できる超分子錯体に着目し,新たに分子設計,合成した有機配位子と,コバルト,ニッケル,亜鉛,および銅イオンからなる超分子金属錯体型可溶化剤を開発した。
ここでは,半導体性単層CNTを選択的に抽出するポリフルオレンの骨格に,金属錯体による一次元ポリマー化部位を導入したことで,ポリフルオレンに比べて約10倍という,有機溶媒中では世界最高レベルの可溶化量を達成した。これは,超分子錯体の形成が,CNTの表面で逐次的に伸長される現象を巧みに利用したため。
この金属錯体型可溶化剤は,酸を加えることで簡単に分解するように設計されており,半導体性CNTを99%純度,高濃度で分離し,また,設計どおりに,可溶化分子を簡便に,かつ完全に取り除くことを確認した。さらに取り除いた可溶化剤は,「再生可能」であり,アルカリで中和の後,繰り返し分離精製に供することができる。
この可溶化分子は,単層CNTの上で逐次的に超分子ポリマーを形成するという手法のため,研究グループでは,大スケールでの高純度分離精製への展開が期待されるとしている。
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