生理学研究所の研究グループは,生後の視覚体験を操作したラットを用いて,一次視覚野における神経細胞回路網の発達過程を詳細に調べた。その結果,生後発達期に正常な視覚体験をすると視覚野に微小神経回路網が構築されるが,視覚体験を全く経ない,あるいは形ある物を見ることなく生育したラットの視覚野では,微小神経回路網が形成されないことがわかった(ニュースリリース)。
脳の機能は,生後の体験や学習に依存して発達することが知られており,例えば,生後発達期に様々な視覚体験を経て成熟すると,物を認知・識別する能力が向上しますが,物を見ずに成長すると、その能力が弱まる。
つまり正常な脳機能の発達には,積極的な脳の活動によってもたらされる神経回路の形成が重要であると考えられる。しかし,その詳細なメカニズムは,未だに明らにされていない。
研究グループは,① 正常な視覚体験を経たラット,② 生後開眼したばかりの未熟なラット,③ 暗室で飼育し全く視覚体験のないラット,④ 明るさの変化は体験しているが,物の形など意味のある視覚体験を遮断されたラット,といった4種類の成育過程を経たラットを用い,各々の視覚野の神経回路を電気生理学的手法と光スキャン刺激法によって詳細に調べた。
その結果,正常な視覚体験を経たラットの視覚野には,多くの神経結合により構築された微小神経回路網が形成されていた。この微小神経回路網は,様々な視覚情報を混同することなく,各々を認知・処理する上で重要な役割を担うと考えられている。
②の,生後開眼したばかりの未熟なラットの視覚野では,微小神経回路網は未だ形成されていなかった。③の視覚体験のないラットでは,開眼直後のラットと同様,微小神経回路の形成は認められなかった。
さらに,④の意味のある視覚体験を遮断されたラットでは,微小神経回路網の発達は阻害された。これらの結果は,視覚野の情報処理に必要な微小神経回路網の形成が,生後発達期の視覚体験の度合いによって,その形成が左右されることを示している。
研究グループは今回,選択的な神経結合による神経回路網が多様な視覚入力を受けることにより出来上がることを示した。この成果は,脳が担う情報処理機能メカニズムへの理解を深めるとともに,脳が健やかに育まれる仕組みを解明にする一助となるとしている。
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