富士経済は,重くて硬いガラス基板から軽い,薄い,曲がるなどの特性を持つフレキシブル基板に変更することで,これまで想定できなかった用途への展開が期待されるフレキシブルデバイスと,そのデバイスに使用される部材の市場について調査を行なった(ニュースリリース)。その結果を「2014フレキシブルデバイス関連市場の将来展望」にまとめた。
この報告書では,フレキシブルデバイスとその関連部材のほか,フレキシブルデバイスに導電材料や絶縁材料など,各種機能材料を印刷する印刷装置の市場動向についてもまとめた。
フレキシブルディスプレイは液晶,有機EL,電子ペーパーを対象とし,用途別としてモバイル端末用,ウェアラブル端末用,車載用のディスプレイと,大型ディスプレイに分類。
市場はウェアラブル端末用が先行して拡大し,その後モバイル端末用が拡大するとしている。車載用や大型ディスプレイは2020年以降の拡大が期待されるという。モバイル端末用はスマートフォン(6インチ前後のディスプレイを搭載したファブレットを含む),タブレット用を対象としている。
2013年は10月にフレキシブル有機ELディスプレイを搭載したファブレット「GALAXY ROUND」(Samsung El.)が韓国で,11月には同「LG G Flex」(LG Electronics)が韓国と日本で発売され,市場が立ち上がった。「LG G Flex」がアメリカや欧州などで販売が予定されていることや「LG G Flex2」も年内に発売されるとみられるが,スマートフォンではフレキシブル有機ELディスプレイ搭載による利点が見出しにくいため,2014年の市場は小規模にとどまると見込んでいる。
2015年以降は,ファブレットやタブレットへのフレキシブル有機ELディスプレイの搭載が進み,市場は拡大するとみている。6~8インチのディスプレイをフレキシブル有機ELディスプレイにすることで軽薄化や壊れにくさなどの利点が大きくなる。軽薄化だけではなく,今後折りたたんだり丸めたりできる技術が発展することで,さらなる市場の成長が期待できるとしている。
車載用は,当面はLCDの採用が大半を占め,フレキシブル化は進展が遅いとみる。2017年以降フレキシブル有機ELディスプレイの試験導入が始まり,2020年以降本格的な市場の拡大を予測する。大型ディスプレイでは,フレキシブル電子ペーパーの市場が「紙のデジタル化」で多量の紙を使用する企業や大学で導入され立ち上がった。一方,フレキシブル有機ELディスプレイは大型化が難しいことから市場の形成に時間がかかり,2020年以降に屋内用のデジタルサイネージ向けのサンプル出荷の開始が期待される。
フレキシブル電池はフレキシブルなリチウムイオン二次電池,有機薄膜太陽電池,色素増感太陽電池を対象としている。2013年,フレキシブル電池の市場は僅少にとどまった。有機薄膜太陽電池と色素増感太陽電池はサンプル出荷が中心となり,フレキシブルリチウムイオン二次電池の本格的な製品化は2014年に持ち越しとなった。
フレキシブルリチウムイオン二次電池は,軽く,薄く,大面積化が可能,搭載箇所を選ばない,設置効率が高い,積層搭載可能といった利点がある。需要が高く,大面積化が活かせる各種産業用や輸送機器,白物家電など大型用途で先行して展開され,その後に薄型,軽量が活かせるウェアラブル端末などの小型電子機器に採用されるとみている。
有機薄膜太陽電池は2014年以降,非系統電源として部分的な発電を担ったり,系統電力と組み合わせて使うなど,小規模な発電デバイスとして徐々に市場が拡大するとみる。建材一体型や車載用電力としては,2020年以降本格的に市場が拡大すると予想する。特に車載用電力として薄型,軽量である点が評価されている。
色素増感太陽電池はリジットタイプも含めて商用生産を行っている企業が少なく,フレキシブル化は有機薄膜太陽電池より遅いとみている。2016年以降,出力規模の大きい建材一体型が期待されており,徐々に市場が拡大すると予測する。
調光フィルムは透明状態から濃い青色やミラー状に変化することで太陽光量を調節するフィルム。太陽光を制御して省エネルギーに寄与する製品を対象とする。住宅や公共・商業施設、乗り物の窓に採用すると太陽光量を自在にコントロールできるため,エアコンなどのエネルギー負荷削減や快適な空間作りを目的に多様な方式のフィルムの開発が進められている。
2013年はメルセデス・ベンツが乗用車「SLK-Class」に調光機能を持ったルーフを搭載した。可視光だけでなく近赤外光の透過率も制御し紫外光をカットするSPD方式のフィルムが採用されている。その他一部航空機,バス,船舶の窓やルーフなどにも採用されており,2014年は引き続き乗り物向けの需要が増加するとみている。
現在,SPD方式以外のフィルムは開発段階にある。SPD方式はResearch Frontiersの特許であり,サプライヤーが少なく価格が高止まりするとみられることから,2015年以降も高級車向けなど用途が限定されるとしている。しかし,2018年以降は,サーモクロミック方式やガスクロミック方式などの技術が実用化されることでコストダウンが図られ,自動車や航空機以外の建築用途へも調光フィルムの需要が広がり,市場は拡大するとみている。
曲げることができるディスプレイ,有機EL照明,電池,触覚センサ,調光フィルムを対象とした。2013年は触覚センサと調光フィルムが市場の大半を占めた。その他は,サンプル出荷が中心となり,本格的な市場の立ち上がりには至らなかった。2014年は,工業,自動車,医療,福祉分野で需要を伸ばしている触覚センサに加え,ウェアラブル端末用ディスプレイが拡大すると見込む。
有機EL照明は2015年以降,住宅やオフィスの一般照明としての利用はそれほど増加しないものの,商業施設のデザイン照明や曲面の多い自動車,航空機といった輸送機器の照明としての需要は高まるとみている。触覚センサは工業,自動車,医療,福祉分野に加え,2015年以降は新興国のエレクトロニクス産業の成長や車載センサでの実用化などもあり,さらに需要が拡大するとみている。
2013年の市場は,多くの部材でサンプル出荷が中心となり小規模にとどまったが,2014年は12億円が見込まれるとする。将来的には,ハイバリアフィルム,カバーガラス,有機EL材料の需要が高まるとみている。また,フレキシブル基板(フィルム)や透明導電性フィルムなど,ロールtoロールによる量産が可能な部材はコストダウンが図られるため,市場構成比は低下するとみる。有機ELデバイスの普及によって,有機ELを酸素や湿気から保護する封止材の需要が増加し,封止材の構成比が高まると予測している。