慶應義塾大学の研究グループは,複数のユーザが同時に裸眼で観察可能な3D映像を空中に投影できる3Dディスプレイ「HaptoMIRAGE」を開発した(ニュースリリース)。3D映像は現実の環境に重ね合わせて表示され,ユーザは特殊な眼鏡を掛けることなく,広い範囲から両眼視差と運動視差を持つ立体映像として観察することができる。
さらにユーザと提示映像の間に障害物となる構造がないため,提示映像に直接手を伸ばして操作したり,空中に3Dコンピュータグラフィックスのスケッチを描いたりするなど,現実空間と情報空間がシームレスに融合した,新しい体験が実現する。
この3D映像提示の原理は,同研究グループが提案したARIA:Active-Shuttered Real Image Autostereoscopy法を応用している。ARIA法で構築される3Dディスプレイは,モーションキャプチャセンサ,液晶ディスプレイ,透明液晶ディスプレイ,フレネルレンズの4つの要素から構成される。
この手法では,まずユーザの視点位置をモーションキャプチャにより計測し,その頭部位置に対応した両眼視差映像を液晶ディスプレイに表示する。この映像がフレネルレンズの手前の空間中に実像として結像する。
しかし,このままでは左目用の映像と右目用の映像が両方とも左右の眼に入ってしまうため,それを防ぐために透明液晶ディスプレイを液晶ディスプレイとフレネルレンズとの間に配置している。透明液晶ディスプレイは,左右の眼それぞれに対応した映像がそれぞれの眼のみに入るように,光線の進行方向を決定するアクティブシャッターとして働く。
これにより,左目用の映像はユーザの左目のみに,右目用の映像はユーザの右目のみにと,空間中に結像した視差映像が正しく片方ずつ交互に入り,ユーザは立体映像として認識することができる。視差映像とアクティブシャッターの位置は,ユーザの頭部位置に応じて変化するため,広い範囲から3D映像の観察が可能となる。
研究グループはこの成果により,公共空間におけるデジタルサイネージ,博物館におけるインタラクティブ展示,アーケードゲームなどのエンターテイメントシステムなどの分野において,実物体と融合した相互作用可能な空中3D映像の利用が容易に実現できるようになることが期待されるとしている。
今後は,別途開発している触覚提示技術と統合し,3D映像に触った際のリアルな触感を提示することにより,より高い存在感を提供できるインタラクティブな情報環境を構築し,これまでの受身的な情報コンテンツとの関わり方を身体的な経験へと拡張する実例を展開していく。
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