東北大ら,トンボの多様性が集団に与える影響を解明

東北大学と東邦大学,Lund Universityは共同で,アオモンイトトンボの雌における種内の色彩の多様性が集団の繁栄の程度(増殖率や密度,安定性,絶滅リスクなど)に与える影響について,野外実験と数理モデルの両側面から検証した(ニュースリリース)。

野外の生き物には,集団内に多様性や個性,個体差が数多く存在している。このような多様さの機能や意義については,明確な答えは得られていなかった。

日本で最もふつうに見られるイトトンボの一種であるアオモンイトトンボには,雌の色彩に一見して明らかな多様性(個体差)が存在し,雌らしい色をした「メス型の雌」と雄に似た色彩をもつ「オス型の雌」が集団内に共存している。

このような雌の多様さは,執拗に交尾を試みる雄からのセクシャルハラスメントを回避するための雌の戦略として進化し,負の頻度依存淘汰により維持されていると考えられてきた。

検証の結果,雌の中に複数の色彩型がバランスよく混在する(多様度が高い)ほど,雄が効率的に雌を探索できず,雌一個体あたりのセクシャルハラスメントのリスクが低下することがわかった。

また,ハラスメントの軽減が集団の増殖率や安定性を高め,最終的には集団の絶滅リスクを減少させることが示された。さらに,人為的に雌の多様度を操作する実験を行なったところ,多様度を高めた集団ほど増殖力が高まることが裏付けられた。

この成果は,「集団内の多様性」が集団の繁栄に貢献していることを証明するとともに,生物の形態や色彩の進化がその生物の繁栄や絶滅に直接的に影響することを示すもの。

「多様さが生物を繁栄させる」という視点は,今後,現在の生物多様性の成立過程の理解,さらには外来種対策や生物の保全対策に生かされると期待される。

関連記事「基礎生物学研究所ら,メダカの色素細胞の多様性を生み出す仕組みを明らかに