東北大学と独レーゲンスブルグ大学の共同研究グループは,半導体細線構造に印加する磁場方向を変化させることにより,量子干渉効果が最大となる角度からスピン軌道相互作用を直接決定できる検出法を確立した(ニュースリリース)。
スピン軌道相互作用は電場を磁場に変換する相対論的な効果。固体中では真空中に比べスピン軌道相互作用の効果が極めて強くなり,固体物理の様々な分野で重要な役割を果たす。また,磁場を用いることなく電場で電子スピンを生成・制御・検出することが可能となるため,スピントロニクスに重要な役割を果たすことが期待されている。
しかしながら,半導体二次元電子ガス中の電場に起因したRashbaスピン軌道相互作用と,半導体構成原子のミクロな電場に起因したDresselhausスピン軌道相互作用の2つが存在するため,2つ以上の未知なパラメータを用いて実験データを解析する必要があるため,これまでのスピン軌道相互作用の評価には大きなばらつきがあった。
一方,この2つのスピン軌道相互作用の強さを制御し等しくすることができると,スピン緩和の抑制された永久スピン旋回状態が実現される。このため,キャリア濃度を決定するホール測定のような,信頼性が高くかつ簡便なスピン軌道相互作用の評価方法の確立が望まれていた。
研究グループは今回,半導体細線構造に面内磁場(半導体二次元電子ガスに平行な磁場)を印加することにより量子干渉効果の振幅が最大となる面内磁場方向から,実験データを解析することなく直接Rashbaスピン軌道相互作用とDresselhausスピン軌道相互作用の比を求めることができる信頼性の高い計測法の開発に成功した。
具体的には,InGaAs半導体二次元電子ガスから細線構造を作製し,量子干渉効果(磁気伝導度)を測定すると面内磁場の角度に強い依存性を示すことを観測した。また,この磁気伝導度の振幅を面内磁場の角度に対してプロットすると異方性を示し,数値解析と理論の結果を良く再現することを確認した。
この振幅が最大になる角度から直接Rashbaスピン軌道相互作用αとDresselhausスピン軌道相互作用βの比α/βを求めることができることを実証した。また,面内磁場の大きさを変化させて測定することによりαとβの絶対も求めることができる。
さらに細線にゲート電圧を印加しRashbaスピン軌道相互作用αを変化させゲート電圧によって永久スピン旋回状態を実現することに成功した。このゲート電圧では[-110]方向の細線では異方性が消失し確かに永久スピン旋回状態が実現されていることを検証した。
この研究成果は,半導体や磁性体を用いたスピントロニクスだけでなくスピン量子情報やトポロジカル絶縁体,マヨラナフェルミ粒子等スピン軌道相互作用が重要な役割を果たす研究分野に大きなインパクトをもたらすことが期待されるという。
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