産総研,シリコントンネル電界効果トランジスタの動作速度を10倍にする技術を開発

産業技術総合研究所(産総研)は,シリコントンネル電界効果トランジスタ(トンネルFET)の新しい動作速度改善技術を考案し,実証した(プレスリリース)。この技術により,動作速度が10倍以上改善されることが期待される。

トンネルFETは,0.2~0.3 V程度の低い電圧で駆動する新動作原理によるトランジスタであり,超低消費電力集積回路への応用が期待される。しかし,トンネル抵抗が大きいために高速動作に必要な駆動電流を得るのが難しいという問題があった。

このトンネルFETの駆動電流が小さいのはトンネル抵抗が大きいため。これは,バンド間トンネル現象が運動量保存則に制限されるためトンネル確率が低くなることに起因している。研究グループは今回,トンネル障壁中に等電子不純物を導入して中間準位を形成し,電子を中間準位を介してトンネルさせることで運動量保存則の制限を緩和させ,トンネル確率を高くした。

トンネルFETはオフ電流が小さいため待機電力が小さいという利点がある。しかし,今回開発した技術では,オフ電流が増加して待機電力が増大する可能性が懸念されるが,開発したシリコントンネルFETと,通常のシリコントンネルFETの待機電流特性を比較した結果,オフ電流の著しい増加は見られず,待機電力増大の懸念が無いことが分かった。

また,より単純なデバイスであるシリコンダイオードに今回の技術を適用したところ,シリコンダイオードに逆方向の電圧を加えると流れるトンネル電流は通常のシリコンダイオードに比して735倍になった。シリコントンネルFETでは10倍以上駆動電流が増加したが,実用化に向けては100倍から1000倍の駆動電流の増加が必要となる。シリコンダイオードでのトンネル電流の増大から、シリコントンネルFETでも同程度の電流増大の可能性があると考えられるという。

従来のシリコントンネルFETでは,現在集積回路に用いられている電界効果トランジスタ(MOSFET)に比べて100分の1から1000分の1程度の駆動電流しか得られない。今回開発した技術では,トンネル確率を増加させることで,シリコントンネルFETの駆動電流を10倍以上増大させた。

今回の成果により動作速度の改善が期待され,コストと量産性に優れるシリコントンネルFETの実用化に貢献すると考えられる。研究グループはシリコントンネルFETの駆動電流のさらなる向上を目指すとともに,この技術を利用したCMOS回路を試作し回路動作の実証を目指すとしている。