名古屋大学の研究グループは,カルボニル化合物とフェノール誘導体のカップリング反応を促進する新しいニッケル触媒を開発することに成功した(プレスリリース)。開発した新触媒は医薬品や有機材料の原料として有用な芳香環カルボニル化合物を,安価かつ入手が極めて容易なカルボニル化合物とフェノール誘導体から合成することを可能にする。
現在,極めて多種類のカルボニル化合物とフェノール類が市販されているため,医薬品や有機材料の合成に必須のツールとして今後多方面で使われていくことが見込まれる。また,生命機能分子の根幹となる有機骨格をつくることのできるこの反応は,現在世界トップレベル研究拠点(WPI)「トランスフォーマティブ生命分子研究所」として展開している動植物の機能を調整する分子の創製研究にも応用が可能。
研究グループは,カルボニル化合物(ケトン類)の「α−アリール化」と呼ばれる芳香族化合物の導入反応において,これまでの主流であったパラジウム触媒からニッケル触媒の潜在的可能性に着目し,研究を進めてきた。今回,触媒(特に配位子)を徹底的にチューニングすることによって,これまで反応剤として使うことができなかった安価なフェノール誘導体を用いたカルボニル化合物のα−アリール化についに成功した。
今回の研究成果の特筆すべき点は,これまで直接α−アリール化の課題とされていた
1) 高価なパラジウム触媒を用いる
2) 環境に悪影響を与えるハロゲン化物を排出するハロゲン化アリールを用いる
3) 強い塩基を促進剤として用いる
という問題点を一挙に解決したことにある。
この新触媒・新反応の出現によって,医薬品や有機材料の有用な構成要素である芳香族カルボニル化合物の迅速かつ安価な合成法が確立できたことになる。Ni-dcypt触媒の高い結合活性化能は,これまで活性化が困難であった様々な有機分子の活性化とカップリングを可能にする。ニッケル触媒およびフェノール誘導体は安価かつ安全であることから工業レベルでの生産への応用が期待され,カップリング技術の飛躍的な向上につながることが予想される。