原研ら,被ばくにより被ばくを免れた正常な染色体にも異常が生じることを発見

日本原子力研究開発機構は,大阪府立大学と共同で,DNAが損傷を受けることで,細胞中の被ばくしていない正常な染色体にも異常が生じることを発見した。

研究グループは,ヒト染色体に紫外線(UV-A)を照射し染色体中のDNAを損傷させた後,これを照射していないマウスの細胞中へ移入し,さらにこの細胞を20日から1ヶ月程度分裂増殖させ,何世代にもわたり細胞分裂を繰り返すことのできるクローン細胞株を作製した。

このクローン細胞内のヒト及びマウス染色体にどのような影響が現れるかを観察したところ,ヒト染色体のみならず照射されていないマウスの細胞に由来する染色体にも,高い頻度で異常が生じることを見出した。

これまで、生物に対する照射影響では,直接損傷を受けたDNAが正常に機能できないことが主に考えられていたが,細胞内では複雑なメカニズムを介して非照射染色体中のDNAにも影響が及ぶ可能性を示唆する結果。

今後の詳細な解析により,放射線によるDNA損傷が細胞分裂を経てどのように染色体の異常を誘発していくのか,その基礎的なメカニズムの理解と,さらには放射線による細胞のがん化の仕組みの解明に大きく貢献する可能性があるという。

今回の発見は,遺伝子レベルでの照射影響のメカニズムに関する新しい知見の提供として,これまで主に疫学的な調査を基にした経験則から導き出されてきた放射線の防護基準と補い合いつつ,例えば,従来では明確な結論が得られていない長期低線量被ばくの影響をより正確に捉えることにもつながり,原子力科学の発展に寄与することも期待される。

詳しくは,日本原子力研究開発機構 プレスリリースへ。