東大,光エネルギーを用いて塩化物イオンを細胞内に運び入れる機構を発見

東京大学大気海洋研究所のグループは,宮崎大学,マサチューセッツ工科大学らと共に,海洋細菌(Nonlabens marinus S1-08T)から光エネルギーを用いて塩化物イオンを細胞内に運び入れる,新しい種類のポンプ(ロドプシン)を発見した。

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これまで太陽の光エネルギーを利用している海洋生物は,クロロフィルを持つ光合成生物,すなわち植物との考えが常識だった。しかし,10年ほど前にプロテオロドプシンと呼ばれるロドプシンの仲間で,光が当たると細胞内から水素イオン(H)を排出するポンプが発見され,植物以外の海洋生物でも光エネルギーを利用していることが明らかになった。

生物共通のエネルギー物質であるアデノシン三リン酸(ATP)は,細胞の内外におけるイオンの濃度差を利用して合成されているため,ロドプシンはエネルギー合成の観点からも重要となる。またロドプシンによる光エネルギーの利用方法は非常にシンプルであるため,これまでにプロテオロドプシン以外のロドプシンが存在することが予想されていたが,そのすべては明らかではなかった。

研究グループは今回新たに発見した塩化物イオンを細胞内に運び入れるロドプシンをClR(Cl pumping Rhodopsin,Clを運ぶロドプシン)と命名。また,Nonlabens marinus S1-08Tのゲノム解析から,この海洋細菌はClRの他に水素イオンやナトリウムイオンを細胞の外に運ぶロドプシンを持つことも明らかにした。つまり,この海洋細菌は海水を構成する主要イオンである水素イオン,ナトリウムイオン,塩化物イオンの三つのイオンを,光を用いて運搬できる。

今後は,この海洋細菌がこれらの3種類のロドプシンをどのように操って生命活動を続けているのか,こうしたロドプシンはどの程度海洋細菌に広く見られるものなのか,ロドプシンはどの程度の光エネルギーを受け取っているのかなどを明らかにすることで,海洋細菌の光エネルギー利用機構に関する理解が深まるものと期待される。

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