日本電信電話(NTT)は,光格子中に束縛された約100万個の原子に対して量子コンピュータのリソースとなる大規模な量子もつれ状態を高精度かつ高速に生成する手法を世界で初めて確立した。この成果は,量子コンピュータ実現に向けて重要な課題となっている,量子ビットのサイズ拡張性やエラーの低減を図ることが可能となり,100万ビット規模の量子計算が実現できる可能性が広がるもの。
量子コンピュータ実現への最大の課題は量子ビットのサイズ拡張性とエラーの低減にある。この課題を解決する方法として光格子の応用が注目されている。光格子は光の波長(< 1μm)程度の間隔に周期的に1個ずつの原子を閉じ込めることが可能であり,均一で理想的な量子ビットとなる原子を他の物理系に比べてコンパクトに大量に集積化できる技術として期待されていた。
実際にこの技術を用いた光格子時計などの既に実証済みの有望な応用がある。もしこのような大量の量子ビット間に特定の大規模量子もつれ状態を作成することが可能となれば,あとは,個別の原子測定という量子ゲートに比べて容易な処理をすることにより,測定型の量子計算が実現できることが知られている。しかし,光格子中の原子は集積性や均一性が優れている一方,人為的な制御性が困難な面があり,量子計算に求められるような大規模量子もつれ状態を高精度かつ高速に作る方法はこれまで明らかにされていなかった。
今回NTTは,量子コンピュータの計算リソースとして用いることの出来る,大規模な量子もつれ状態を光格子中に束縛された原子に対して高精度(理想的なもつれ生成に対して99%以上の一致度合い)かつ高速(~1ms)に作る手法を世界で初めて確立した。これまでは,量子もつれの生成において,精度とゲート操作の速度との間にトレードオフがあった。
また,大規模量子もつれ状態を生成しようとすると複数の量子ビット間でクロストークが起こり,エラーが大きくなるという課題があった。今回,レーザ光やその強度の調整により光格子を巧みに設計することで,トレードオフ及びクロストークの問題も解消した高精度,高速かつサイズ拡張性のある量子もつれを生成する手法を確立した。
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