高輝度光科学研究センター(JASRI),神戸大学,日本原子力研究開発機構(JAEA)の研究グループは,産業技術総合研究所と共同で,軟X線領域での自然円二色性スペクトルの高精度な計測により,生体物質を構成する複数の異なるアミノ酸中の酸素原子近傍の局所的な立体構造の違いを検出することに成功した。
これまで軟X線を利用した吸収スペクトル測定が,物質の組成解析などに多く利用されてきた。一方,円偏光軟X線を利用した自然円二色性スペクトルは,物質の立体構造情報の取得に有効であるとされていたものの,測定が非常に困難であったため研究が十分に進んでいなかった。
今回研究グループは,大型放射光施設SPring-8の軟X線固体分光ビームラインBL25SUに設置されたツインヘリカルアンジュレータからの軟X線の円偏光状態を高速で切り替える技術を駆使することで,ノイズを吸収強度の0.1%以下まで低減させるなど,自然円二色性スペクトルの測定精度を大幅に向上させた。
この測定手法は,従来の一般的な吸収スペクトル測定では観測できないようなわずかな立体構造の違いを高感度で検出することを可能とするもの。この手法を用いて側鎖の異なるさまざまなアミノ酸試料の軟X線領域での自然円二色性スペクトルの測定を行ったところ,吸収スペクトル測定では観測できなかった側鎖の違いを観測できた。今後,タンパク質などの生体分子の詳細な構造決定から創薬分野まで,さまざまな応用が期待される成果。
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