月刊OPTRONICS 特集序文公開

レーザー核融合炉材料

1.核融合炉材料

1.1核融合炉材料の特徴と課題
核融合炉材料とは,広義には核融合炉に用いられる特殊な材料全般のことを指すが,狭義には核融合炉内の放射線環境下,すなわち荷電粒子や中性子などの高エネルギー粒子線の照射下で用いられる材料のことを指す。高エネルギー粒子線の照射を受けた固体材料の表面や内部では,原子のはじき出し損傷や核変換が生じ,材料特性の変化(劣化)に繋がる。核融合炉において燃料として使用する三重水素や中性子照射を受けた材料中に発生するその他の放射性物質を環境に許可量を超えて放出させないためには,放射性物質を内包する炉内機器の境界において用いられる材料の劣化を適切に評価・予測し,機器の構造健全性を確保することが必要である。

表1 に示すように,核融合炉には劣化を防ぐために粒子線照射を避けるべき機器が存在する一方で,これらの機器を照射から防護するだけではなく照射によって生じる機能を発揮するために積極的に高エネルギーの粒子線照射に耐えることが求められる機器も存在する。前者の代表が,磁場閉じ込め方式の核融合炉における超伝導コイルやレーザー核融合炉におけるレーザー発振器のような高い機能を求められる機器であり,図1に示す概念図のように,高エネルギー粒子線照射の影響を極力受けないように配置されることになる。磁場閉じ込め方式での超伝導コイルはプラズマを閉じ込めのために炉心の周囲に置く必要があり,その内側の容器内に中性子遮蔽とエネルギー変換を担う十分な厚さを有するブランケットと呼ばれる機器を配置することになるため,炉の小型化には限界がある。このジレンマを回避することと中性子照射による構造材料の放射化を避けることを念頭に,水素とホウ素の非中性子発生型核融合反応を利用する核融合炉を目指すスタートアップ企業も海外には存在するが(例えばオーストラリアのHB11 Energy社),現在見通せる技術からの飛躍は極めて大きいと考えられるため,本稿では中性子発生型の核融合炉を前提として核融合材料について論じる。

核融合炉材料の中性子照射影響については,既存の軽水炉や高速炉に用いられる原子炉材料と共通する課題も多いが,核融合中性子のエネルギーとフラックスが原子炉内での核分裂中性子よりも高いこともあり,過酷な中性子照射に耐えうる独自の材料開発研究が進められてきた。核融合炉材料の中性子照射影響評価には,理想的には核融合反応から生じる高エネルギー(重水素と三重水素の核融合の場合14 MeV)の中性子を,核融合炉環境に匹敵するフラックスで照射することが必要となるが,核融合炉が無い状況では実施不可能である。そこで,核融合炉に匹敵するエネルギーおよびフラックスの中性子を照射可能なA-FNS(日本)やIFMIF-DONES(EU)の開発が進められている。しかし,これらの加速器ベースの強力中性子源は開発段階であり。現状では,原子炉中性子や加速器によるイオンビームを用いた模擬照射法によって得られた照射材の材料特性や内部組織を評価し,モデリング・シミュレーションによって核融合中性子照射環境での変化を予測する基礎的な研究が中心となっている。

核融合炉の炉心周辺の第一壁は,中性子に加えてプラズマからの荷電粒子(イオンや電子)の照射も受ける点は原子力材料とは全く異なる特徴である。固体壁を用いる場合には,中性子照射による内部損傷に加えて荷電粒子照射による表面損傷との重畳が課題となる。より先進的なアイデアとして液体壁を用いる場合には表面損傷の影響は考慮しなくてもよいが,背面にある固体構造材料の液体金属腐食(と中性子照射の重畳)に関する課題が生じる。

【月刊OPTRONICS掲載記事】続きを読みたい方は下記のリンクより月刊誌をご購入ください。

本号の購入はこちら