月刊OPTRONICS 特集序文公開

総説:フォトニック結晶レーザーとその応用展開

本オプトロニクス誌において,2001年に,「フォトニック結晶」に関する特集を企画させて頂き,その後,2005 年には,「フォトニックナノ構造,およびその関連技術」に関する特集,2013年には,「ここまで来たフォトニック結晶技術」,さらには,2017 年に,「次世代レーザー光源:ここまで来たフォトニック結晶レーザー」を企画させて頂いた。今回,編集部から,その後のフォトニック結晶技術,特に最近進展の著しい,フォトニック結晶レーザー:Photonic-Crystal Surface-EmittingLaser, PCSELに関する特集を企画してほしいという依頼を受け,本号の出版の運びとなった。

図1 フォトニック結晶レーザー技術の進展
図1 フォトニック結晶レーザー技術の進展

半導体レーザーは,小型・高効率・高制御性ゆえに,通信・情報・光記憶等の分野で欠くことの出来ないキーデバイスとなっているが,既存の半導体レーザーの課題は,高ビーム品質・高出力動作が困難である点にある。ここに,既存の半導体レーザーは,大きく2 種類に分類出来,その1 つは,光を増幅する利得媒質を含む光導波路の両端面を劈開し,鏡として用い,面内方向に光を往復・共振させて発振させる端面出射型レーザーであり,もう1 つは,基板面に対して,垂直方向に光を往復・共振させて発振させる垂直共振器型面発光レーザーである。いずれも,高出力化のために面積を大きくすると,面内方向に光の状態を制御する機構が存在しないため,多くの不要モードが出現し,ビーム品質が著しく低下する。その結果,輝度(単位面積,単位立体角当りの光出力と定義され,出射ビームが如何に広がらないで伝搬出来るか,また,如何に強く集光可能かを表す指標)の増大に限界(最大でも,100 MWcm–2sr–1 程度)が生じ,高輝度が要求されるセンシング,計測,光加工,医療・生命科学,さらには宇宙応用に至る様々な展開のボトルネックとなっている。

特に,近年,注目を集めるスマートモビリティ,スマート製造等に代表されるスマート社会(Society 5.0)の実現のためには,光源技術として,小型・安価・低消費電力・高制御性という半導体レーザーのもつ特徴を活かすことが極めて重要であり,半導体レーザーの輝度増大は必須と言える。現在は,自動運転や,ロボットの自動走行などに向けたLiDAR(Light Detection and Ranging)に代表されるセンシングシステムの心臓部の光源部には,ビーム品質の悪い既存の半導体レーザーが用いられているため,複雑な光学系とその制御・調整が必須であり,コストの増大,サイズの増大,さらには信頼性の低下等の問題を生じている。また,スマート製造の核となるレーザー加工においても,現状は,CO2 レーザーやファイバーレーザーなどの大型で低効率のレーザーが用いられているが,カーボンニュートラル等の観点から小型化・低消費電力化・低コスト化が強く求められており,ここでも,半導体レーザーの高輝度化は,喫緊の課題と言える。

半導体レーザーの高輝度化を実現可能なレーザーが,フォトニック結晶面発光レーザー(Photonic-CrystalSurface-Emitting Laser:PCSEL)である。本レーザーは,2次元面内の光の状態を制御可能で,不要モードの存在を許さない光共振器を形成出来ることを大きな特徴とする。図1には,PCSELの進展の様子が示されている。1999 年に,2次元フォトニック結晶のバンド構造の特異点(Γ 点)において,大面積単一モード面発光レーザー発振が生じることが見出されたことに端を発し,その後の様々な進展を経て,2018-2019 年に「2重格子フォトニック結晶」が出現したこと,さらに,結晶内部でのエルミート/非エルミート性に基づく光結合を考慮した理論構築により,3 mm~10 mmを超える大面積でもコヒーレント動作が可能で,高ビーム品質かつ高出力動作(高輝度動作)が可能となりつつある。さらに,フォトニック結晶の有する各種の光の制御性や波長のスケーラビリティに基づいて,任意の形状・偏光ビームの発生や電気的ビーム走査の実現,青色や緑色への展開,さらには,光通信波長域への展開が図られている。また,Qスイッチ機能の導入による短パルス発生までもが可能になって来ている。さらには,自由空間通信(宇宙の衛星間通信等含む)を始め,極端紫外線(EUV)の発生や,宇宙セイル推進,さらには核融合にも革新をもたらすものと期待されている。PCSELへの産業界からの期待も極めて高く,京都大学に設置されたフォトニック結晶レーザー研究拠点(PCSEL COE)には,すでに140 を超える様々な企業・機関からのアプローチがあり,多くの連携研究が開始している。まもなく(本年12月に),大学と企業の橋渡し役を担う,中間組織体:一般社団法人「京都大学フォトニック結晶レーザー研究所」が設立される予定である。

本特集では,スマート製造,スマートモビリティ応用に向けたPCSEL高輝度化,高機能化,さらには,青~緑波長域・通信波長域への動作域の拡大や,自由空間通信(宇宙応用含む)への展開等,最近の動向が紹介される。

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