1.はじめに
10 Tb/s級の光トランシーバにおいては,複数の波長チャンネルを多重した多波長デジタルコヒーレント光通信方式の適用が想定される。光の強度のみに情報を載せる強度変調直接検波(IMDD:intensity-modulation directdetection)方式とは異なり,コヒーレント方式では光の位相(複素振幅)と偏波状態も含めた四次元の自由度をフルに活用して情報を伝送する。その結果,IMDD方式に比べて大容量化の面で利点がある一方で,光の複素振幅成分を変調・検出するためのin-phase quadrature(IQ)変調器やコヒーレント受信器が必要になり,必然的に複雑なデバイス構成になってしまう。特に波長チャンネル数の増加に伴い,図1(a)のように,可変波長レーザー,IQ変調器,コヒーレント受信器がそれぞれ波長数だけ必要になり,送受信器全体のサイズ,消費電力,コストが増大する。
これに対して著者らは,図1(b)のように,光コムを用いた小型な多波長コヒーレント送受信回路の開発を進めている。光コムとは,単一波長光から電気光学変調器等を用いることで等周波数間隔で並んだ多波長光を発生させる技術であり,図1(a)のように多数のレーザーを並べる構成に比べて簡易に波長数の拡大が可能になる。更に,これをセルフコヒーレント方式に拡張した構成を図1(c)に示す。本方式では,送信側において一つの波長チャンネルには変調を加えずにパイロット光として伝送し,受信側では,そのパイロット光を取り出して光コムを再生し,コヒーレント受信器の局所光として使用する。受信側の局所光用レーザーを削減できるだけでなく,精密な波長トラッキングが不要になるため無温調レーザーや線幅の太い安価なレーザー光源を使用でき,更には複数波長チャンネル間でデジタル信号処理を共有できるなど,更なる簡略化と低コスト化が可能になる。
以上のように,光コムを用いた多波長コヒーレント方式は,システム全体の簡略化に向けて有効な手法として期待されている。その一方で,先行研究では,市販のバルク部品を用いた原理実証に留まっており,本方式に適した小型な送受信器は実現していない。即ち,送信側では光コムの一本一本にコヒーレント信号を変調する素子,受信側では局所光コムを用いて各波長チャンネルを独立にコヒーレント検波する素子が必要であり,特別の光回路が求められる。本稿では,このような多波長コヒーレント変調器と受信器をコンパクトに実現するための著者らのアプローチと研究開発状況を紹介し,今後の展望を述べる。
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