レーザ光を工具の刃先のように形状を変える─東工大が開発

開発した液体光学素子
開発した液体光学素子

レーザ加工において発振器の性能は,加工精度に大きく依存するが,如何にして高品位な最終ビーム光を取り出すかも重要なポイントで,光学系の最適な設計が求められる。多くの発振器は,ガウシアンモードで出力するように設定されているが,加工材料に適したビームのプロファイルをつくることで高効率な加工特性を得ることができる。

レーザ光の形状を変える光学部品ではホモジナイザやアクシコンレンズがあるが,東京工業大学大学院理工学研究科の伏信一慶准教授とドアン・ホン・ドク博士研究員の研究グループは,「液体光学素子」を使ってビームシェイピングする研究開発を進めている。この研究はレーザ光の「形」を自在に操作できるシステムを提案するもので,フラットトップビーム,スーパーガウシアンビーム,アニュラービーム,ベッセルビームといったビームモードを得ることに成功している。

ビームプロファイリングのデモのもよう
ビームプロファイリングのデモのもよう

ビームシェイピングのカギを握る液体光学素子は,透明なガラス容器内に吸収波長選択性を有する染料を溶かした溶液を封入したもので,光学パラメータが固定される光学系では作り出すことが難しいビーム形状を可変させることができる。また,耐久性にも優れるとしている。

ビームシェイピングは,液体光学素子を励起させるためのレーザ光源を用いて,溶液内に温度場を発生させ,これに依存する屈折率の変化を利用するが,励起用レーザ光源の出力を上げ屈折率を制御することによって,任意のビームプロファイルを作り出すことができる。

伏信氏によると,「当初,液体光学素子を用いたビームシェイピングは,屈折率の依存性を活用することで可能であることが原理的には分かっていた。しかし,その実現に向けてはハードルが高かった。そこで一度基礎に返り,光伝播や熱流動における学術研究に取り組んだ」という。こうして温度や光伝播の数値計算によるレーザ光の「形」を予測していきながら,デバイスの開発と実験を繰り返した。実験ではNd:YAGレーザ,フェムト秒レーザ,ファイバレーザの加工用光源を使用したというが,これらの光源のビーム品質がビームプロファイルの品質を左右するという。如何に高性能な発振器を適用するかも,この開発では重要な要素となる。

今後は,実際の加工において得られたそれぞれのビームプロファイルの有効性を検証していく考えだが,例えば,ベッセルビームはSiCに対して,ガウシアンモードに比べて基板の厚さオーダの焦点深度が期待できるとしている。また,アニュラービームではガウシアンモードに比べて高品位で,高速な溝加工ができるという。一方で,こうしたビームプロファイルによる加工現象も捉えていく必要があるとし,超高速度カメラを使った可視化技術の構築にも取り組んでいる。◇