0. 連載にあたって
この連載は,身近な光学部品を使い,簡単な実験をやりながら「光」の基本を理解してもらおうという趣旨でスタートする。できる限り数学は使わず,実験を通して「光」を理解してもらうような構成にするつもりである。身近な光学部品と言っても,一般の家庭にある光学部品は,せいぜい,ミラー,虫めがね,視力矯正のためのメガネくらいかもしれない。さずがに,これだけでは大した実験ができないので,この連載では,米国の光学会の一つであるOSA(Optical Society of America)が販売しているOPTICS DISCOVERY KIT®という教材を用いる。以後,この教材を「キット」と呼ぶことにする。このキットは,オプトロニクス社の販売サイトで購入できる。
このキットは,10歳以上を対象にした光学の教材で,11種類の実験の手順を簡単に示したシートが添付されている。この連載では,これらの実験を中心に,キットに含まれている光学部品や,簡単に自作できるものを使ったその他の実験を交えて,「光」の説明を行う。10歳というと,日本では小学校高学年ということになるので,使用する数学(算数?)も,この年齢の子ども達が理解できる範囲に限定する。実験は,自分でやってもらうのが原則であるが,模範的な実験の様子をビデオに録画し,連載に合わせてウェブサイトOpto.tv(http://opto.tv/)で公開する予定である。
この連載では,この雑誌の読者の方々が,自分のお子さんや地域のお子さんと一緒に実験に取り組んでくれることを願って書き進めるつもりである。そして,この「光」の実験に刺激された多くの子ども達が,将来,「光」に関連する道に進んでくれることを願っている。
1. レンズとは
レンズは,ミラーと共に,我々にとってもっとも身近な光学部品であろう。我々が気付いているところでも,気付いていないところでも,どこかで毎日使っているものである。カメラには像を作るためのレンズが必要であり,我々の目の中にも網膜上に像を作るためのレンズがある。
レンズの語源は,図1に示すレンズ豆である。日本ではなじみが浅いが,インドやヨーロッパでよく食されている豆で,ラテン語でレンズと呼ばれている。凸レンズがこの豆に似ていることから,レンズと呼ばれるようになった。
レンズの歴史は古い。ビーズなどのガラス玉によって光が集まることは,紀元前の古くから知られていた。現存する最古のレンズは,図2に示す,古代アッシリアのニムルド遺跡から発掘されたもので,ニムルドのレンズと呼ばれている。このレンズは水晶からできており,紀元前10世紀頃のもので,明らかにレンズの形をしているが,何の目的に使われていたのか,はっきりわかっていない。他に,紀元前8世紀のエジプトや,紀元前5世紀の古代ギリシャの文献にレンズの記述がある。
その後,10世紀頃には透明なガラスを使ったレンズが作られるようになり,11世紀に虫めがねとして使用した記録がある。主に老視の矯正に使われた,凸レンズのめがねが発明されたのは13世紀とされている。また,近視の矯正に使われる凹レンズのめがねが発明されたのは15世紀で,その後16世紀に望遠鏡が発明され,さまざまな光学機器が登場することになる。
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