体操競技や新体操などの競技を統括する国際団体である国際体操連盟(FIG)は,11月20日,体操競技において,富士通と開発に取り組んできた採点支援システムを採用することを決定したとして,都内にて記者発表を行なった。
現在,体操の技は高速化・高難度化が進み,従来の審判員の肉眼による採点が困難になりつつある。また,公平な審査を期するため,オフィシャルな大会では,各審判のジャッジをさらに別の審判がジャッジし,それをさらに審判するという3段階のシステムが導入されており,前回のオリンピックでは選手196人に対して審判が100名以上になるなど,競技システムの肥大化が問題となっていた。
今回開発した採点支援システムは,LiDARで捉えた点群データをAIによって分析し,採点の基準となる体の様々な関節の角度を認識すると共に,技の切れ目を認識し,技の辞書(男子819技,女子549技)と照らし合わせ,それぞれの技の難易度(Dルール)および技の完成度(Eルール)に則って自動採点を行なう。
点群データの生成は富士通が開発したLiDARが行なう。赤外線レーザーをMEMSミラーを使って選手に向かって照射し,毎秒200万点(30fps)の点群を得る。照射距離は約10mで,視野角は水平36°,高さ28°となっている。深度分解能は1cm,関節の角度分解能は2°。このデバイスを前方と後方の2台を使用することで,死角の無い3Dの点群データを生成する。
取得したデータを機械学習による3Dの関節座標の抽出で競技者の骨格を認識し,さらに点群データを疑似的な体型データに当てはめるフィッティングという作業を経ることで,骨格の最適位置を探索,このデータを基に採点を行なう。なお,この機械学習は,大学生の協力や世界選手権など過去の試合をデータ化して行なった。
測定に際し,選手のユニフォームや肌の色による反射率の違いは特に問題とならず,スパンコールを散りばめたような光線を散乱するユニフォームでも問題無く測定できる一方,髪の毛の色の違いは測定に影響があったため,補正をかける技術も備えたという。
現在このシステムは,男子があん馬,吊り輪,跳馬の3種目,女子が跳馬と平均台の合計5種目に対応している。ただし,床運動においてはフィールドが広く,選手をトラッキングする機能が必要なのと,段違い平行棒では補助者が付くため,競技者との切り離しの問題が残っているという。
しかし,このシステムで採点をすることで,これまで曖昧な部分があった採点に公平性が担保されると共に,審判員の削減やそれに伴う競技のスピードアップも可能になると見ている。また,選手自身がこのシステムを使用することで,自身の技の完成度を知ることができることは,練習にも大きな影響を与えることになる。
FIGと富士通は今後,2019年にドイツで開催される国際選手権でこのシステムを一部導入すると共に,順次適用を拡大する。また,2020年の5種目自動採点,2024年の10種目自動採点を目指して開発も継続する。ただし,自動採点が可能になっても,人間にしかできない領域は残るため,審判員がいなくなることは無いという。なお,このシステムは東京オリンピックではスポンサーの関係から正式採用とはならず,補助的に使われる見通しだ。
スポーツ産業の規模はアメリカが49.8兆円,GDP比3%と自動車産業並みとなっている一方,日本は5.5兆円,GDP比1%にとどまっている。政府は2025年に15兆円を目指しており,富士通もスポーツICTを新たなビジネス分野として採点システムを中心に取り組んでいく。まずはこの採点システムをFIG公認の国際大会に採用し,国際標準化を目指すとしている。