沖縄科学技術大学院大学(OIST)は,太陽電池に有機金属のハロゲン化ペロブスカイトフィルムについて,ペロブスカイトの効率や安定性を改善するアニーリング(焼きなまし)手法,ある特別なペロブスカイトにおける分解生成物,大型化しても太陽光発電効率を維持するペロブスカイトを生産するための新たな手法を発見した(ニュースリリース)。
研究グループは,有機金属のハロゲン化ペロブスカイトMAPbI3のアニーリング工程後にメチルアミン溶液を使用すると,結晶粒界に関わる問題を軽減できることを発見した。結晶粒界とは,結晶領域において隙間として現れるもので,電荷再結合につながってしまう可能性があり,ペロブスカイトフィルムにおいてよくみられる問題で,効率が下がる原因となる。
結晶粒界を融着させた新たなアニーリング工程後の処理は,荷電再結合を減らし,18.4%という高い変換効率を示した。さらに,同処理を行なったペロブスカイトフィルムは高い安定性と再現性を実現し,産業用の太陽電池製造に役立つことがわかったという。
ペロブスカイトの難点の1つに,シリコン系の太陽電池に比べて寿命が短いことがある。長期間にわたり屋外環境に耐え得る太陽電池を作るためには,ペロブスカイトの分解生成物を測定することが決め手となる。
MAPbI3ペロブスカイトフィルムに関するこれまでの研究では,この物質の熱分解による気体生成物は,メチルアミン(CH3NH2)とヨウ化水素(HI)という結果が出ていた。しかし今回,劣化によって生じた気体のほとんどがヨウ化メチル(CH3I)とアンモニア(NH3)だったことがわかった。
研究グループは,これらの物質の失われた質量と化学的特質を正確に測定するため,熱重量差動熱分析(TG-DTA)と質量分析器(MS)を用いた。分解生成物が正確に測定された結果,材質劣化を防ぐ方法を模索することが可能になり,今後より安定的に材料を使用できるようになるとしいてる。
ペロブスカイトフィルムは研究室で小規模に作製するのは比較的容易だが,大量生産での複製には困難が伴う。研究グループは,大型の太陽電池とFAPbI3ペロブスカイトのモジュールの作製において,コスト効率の高い化学蒸着を用いた。産業界で広く使われている手法を用いたことで,ペロブスカイトフィルムの大量生産の実用化に近づいたことになる。
研究レベルのペロブスカイトフィルムは,<0.3cm2未満サイズだったが,今回,12cm2の太陽電池とモジュールも制作した。多くのペロブスカイト太陽電池は,サイズが大きくなると効率がかなり低くなるが,この太陽電池モジュールは耐熱性も強化され,相対的に高い効率を実現したとしている。
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