物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは,ペロブスカイト太陽電池の実用化にむけた重要課題である,劣化が速いこと,変換効率の再現性が低いことの原因として,陽イオン分子の拡散が重要な役割を果たすことを,原子レベルからの理論計算により世界で初めて証明した(ニュースリリース)。
ペロブスカイト太陽電池は安価で高効率な次世代太陽電池として急速に研究が進んでいる。しかし,劣化が非常に速く耐久性に大きな問題を抱えている。また電流-電圧曲線に大きなヒステリシスが現れることが多く,電圧のかけ方によって変換効率が変動するという問題もある。これらは実用化に対して大きな障壁となっており,その解消法の開発が取り組まれている。
研究では,第一原理計算と反応経路の探索手法を組み合わせることにより,代表的なペロブスカイト材料内において,すでに予想されていた空孔を媒介とする陰イオンの拡散に加えて,これまで注目されて来なかった陽イオン分子も空孔を媒介として容易に拡散し,移動しうることを世界で初めて証明した。
具体的には,メチルアンモニウムヨウ化鉛(CH3NH3PbI3)とホルムアミジニウムヨウ化鉛((NH2)2CHPbI3)という代表的なペロブスカイト材料内の,空孔を介したイオン拡散メカニズムについて調べた。その結果,すでに予測されていたヨウ化物イオン(I-)に加えて,これまで注目されて来なかった陽イオン分子(MA+など)も容易に拡散しうることを世界で初めて証明した。
さらに,空孔密度の減少やイオンサイズの制御が劣化等の抑制に有効であることを示した。この知見はNIMSをはじめ最近の実験研究により発表された劣化やヒステリシスが改善されたペロブスカイト太陽電池の原子レベルでの機構を明らかにするもの。
この成果は,いまだに不明な点が多いペロブスカイト太陽電池内の原子レベル過程の理解を増進させ,高耐久性かつ高安定性を実現するための材料設計指針を与えるもの。より高耐久性・高安定性を持つペロブスカイト太陽電池材料の設計指針を微視的観点から与えるものとなっており,新規材料開発への貢献が期待される。
研究グループは今後,大気環境下や連続光照射下など,より実用的な条件における耐久性,安定性について,現在NIMS内で進んでいる新規ペロブスカイト太陽電池開発の実験研究と連携しながら,原子レベル機構の研究をさらに進め,ペロブスカイト太陽電池の実用化の促進に貢献していくとしている。
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