物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは,ハイブリッド自動車の駆動モータとして使われているネオジム磁石よりも少ないレアアース濃度で,同等以上の優れた磁気特性を持つ新規磁石化合物NdFe12Nxの合成に成功した(ニュースリース)。
ハイブリッド自動車用モータには,ジスプロシウムを8%程度含むネオジム磁石が使用され,その使用量が急増しているが,ジスプロシウムやネオジムなどのレアアースは,原料の地政学的リスクが高いことから,その使用に頼らない磁石の開発が強く求められている。
ネオジム磁石は1982年に佐川眞人氏により発明された世界最強の磁石であり,ネオジム2:鉄14:ホウ素1という磁石化合物(Nd2Fe14B)を主成分としている。Nd2Fe14B化合物の高い異方性磁界と高い磁化のために,ネオジム磁石は優れた磁石になりる。新たに合成に成功した新規磁石化合物NdFe12Nxは,このNd2Fe14B化合物のレアアース量よりも10%も低い量で,同等以上の磁気特性を持つことが見いだされた。
これまでの研究で,NdFe11TiNは安定に合成できる磁石化合物として知られていた。しかし磁性を持たないTiが添加されているために,その磁化はNd2Fe14Bよりも劣り,これまでほとんど注目されなかった。
今回の研究では非磁性元素のTiを使わずにNdFe12Nx化合物の比較的厚い膜の合成に成功し,その固有物性値を測定したところ,これまで最強のNd2Fe14Bを凌ぐ磁気特性,つまり,室温でより高い異方性磁界(約8テスラ),より高い飽和磁化(5%の誤差で1.66テスラ)を持つことを発見した。
この化合物の磁気特性は高温でNd2Fe14Bを凌ぐことから,この化合物で磁石をつくることができれば,ハイブリッド自動車用磁石で大量に使われているジスプロシウムを使わなくても優れた磁石特性が得られると期待できるという。
またNd2Fe14BではNdの質量比が27%であるのに対し,NdFe12NxではNdの質量比がわずか17%で済むために(x = 1として算出),レアアースの使用を大幅に削減でき,さらに高価なホウ素を必要としないために,資源的・価格的に有利な化合物と言える。
研究グループでは今後,実用的な磁石の実現に向け,NdFe12Nxを粉で大量に作る方法や,その粉を磁石の形に固めていくプロセスを開発するとしている。
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