時刻同期をより高精度に─注目の光励起セシウム発振器

この9月にリリース予定の光励起セシウム発振器『OSA3300』
この9月にリリース予定の光励起セシウム発振器『OSA3300』

東陽テクニカは,最先端の時刻同期技術を持つクロック専業ベンダーのスイス・Oscilloquartz社を傘下に収めるドイツ・ADVA Optical Networkingと,日本における販売代理店契約を締結。その第一弾として,オシレータ内蔵機器の一次標準原器である,光励起セシウム発振器『OSA3300』をこの9月にリリースする。

時刻同期が求められるのはリアルタイム性を重視する電力や交通インフラ,金融,放送,モバイル通信,軍事・防衛などの分野がある。中でも,軍事分野ではGNSSを用いた時刻同期がジャミング(妨害電波)などによって引き起こされるセキュリティの脆弱性が指摘されている。

『OSA3300』の構成
『OSA3300』の構成

また,金融分野では,高速電子取引サービスが増加している中にあって,欧州では2018年1月に金融システムに関する規制法『MiFIDⅡ』が施行され,顧客の購入情報や履歴,時間を精密に保存することが義務付けられている。

一方,モバイル分野では5Gサービスの商用化において,そのネットワークを構築する上で,より一層の低遅延化が求められる。さらに,自動運転の安全性を担保するうえでも時刻同期の重要度が増す。こうした中で,時刻同期の高精度化,高安定化ニーズが高まっている。

東陽テクニカでは時刻同期ソリューションとして従来,米国・Spectracom社製のGPS/STL信号時刻同期NTP/PTPサーバ(タイムサーバ)や米国・Spirent Communications社製の高精度時刻同期PTP負荷装置を市場に供給している。同社によれば,特に軍事・防衛市場では高いシェアを持つという。

今回リリースする光励起セシウム発振器は,時刻同期のより高精度化が求められる分野をターゲットにするもので,従来のセシウムに比べてハイスペックなものとなる。従来のセシウム一次標準原器は,マグネット方式が一般的だが,セシウム原子の数が限定されているのに対し,光励起セシウムではレーザー光で原子を励起させることで原子の数を減少することなく,使用できる。

これにより,同期精度が高まることにつながる。その仕様は,3.0×10–12t–1/2,floor=5×10–15としている。また,ITU-T G.8272.1 ePRTCに準拠しており,マスタークロックが外れた場合でも最大14日間(ClassA)の時刻同期を保持する。さらに現在,検討段階にあるという最大80日間(ClassB)についても対応する予定としている。

同社が供給を想定しているのは,OCXO,ルビジウムなどの高安定周波数を出力するオシレータを開発・製造しているメーカー,5G関連の伝送機器メーカー・通信事業者,時刻・タイミングを研究している機関,機器校正事業者などで,映像制作・伝送市場や証券市場にも販売を予定している。初年度売上高は1億円としており,今後の同社の時刻同期ソリューションビジネスの動向が注目される。◇

(月刊OPTRONICS 2018年9月号掲載)