ポリマー光変調器の最高速光データ伝送に成功

九州大学 先導物質化学研究所・教授の横山士吉氏の研究グループは,日産化学工業とアダマンド並木精密宝石と共同で,優れた電気光学特性と熱安定性を持つポリマー光変調器を開発し,従来技術の無機系光変調器では到達が困難だった光データ伝送の高速化と低電圧制御に成功したと発表した。

現在,イーサネット光伝送規格の総伝送速度は増加傾向にあり,その倍増率は過去20年間で400倍にも達している。この高速伝送を支える光変調のチャネル速度は,2010年までに25 Gb/sまで高速化が進み,100ギガイーサでは4〜16チャネルの並列伝送によって伝送容量の増大に寄与している。

このような先端光通信デバイスの研究開発では近年,電気光学ポリマー光変調器への期待が高まっている。このポリマー光変調器は既に開発が進んでいる無機系や半導体系光通信デバイスに比べて,高速性が理論上は高いとされ,消費電力や製造コストの観点からも将来の光通信デバイス技術として注目されている。

ポリマー光変調器による超高速の光データ伝送は,これまでにも報告されてきているが,実用化のためには熱安定性などデバイスの信頼性の大幅な向上が求められていた。

電気光学ポリマーを使った超高速光変調器
電気光学ポリマーを使った超高速光変調器

研究グループは,電圧を印加すると光の屈折率が変化する特性を持つ電気光学ポリマーを使った光変調器に着目。これまで高性能電気光学ポリマーの合成と光変調器の作製に取り組んできた。

今回合成した物質は,ニオブ酸リチウムなどの無機結晶に比べて変調速度が2〜3倍と,高い電気光学特性を持ち,低電圧で光変調できることがわかったという。また,電気光学ポリマーは理論的に100 GHz以上の応答特性を持つことが示唆されていることから無機系・半導体系光変調器では到達が難しかった超高速レートのデータ伝送の実現も期待できるとしている。

実際の光伝送実験では,OOK(On-off-keying)方式で56 Gb/sの光信号を発生させ,PAM-4(Pluse-amplitude modulation)方式で112 Gb/sの光信号を発生させることに成功した。また,動作電圧を1.5 Vに抑えることもできたという。さらに,ガラス転移温度が180℃以上の電気光学ポリマーを合成することに成功し,光変調器の熱安定性についても課題を克服したとしている。

今後は通信技術を中心に,自動運転,IoT,人工知能など実用的な情報処理技術に向けたポリマー光通信デバイスの研究を進めるとしている。

この研究は科学技術振興機構 研究成果展開事業『戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)』の一環として行なわれたものだが,このプログラムオフィサーを務める宮田清藏氏は,「この成果は,分子設計に基づく高度な合成化学とシリコン光集積技術を考慮した素子設計を融合することで,超高速光データ伝送に成功した画期的なもの。このポリマーは従来の無機素材より誘電率が低くかつ電気光学効果が大きいので,低電流,低電圧で駆動する。それにより大幅な省エネ効果がもたらされ,またポリマーは素子化プロセスが容易なので無機系素子と比べ大幅にコスト削減でき,多くの分野での利用が期待される」とコメントした。◇

(月刊OPTRONICS 2018年7月号掲載)