人体の深部イメージングや微細がんの発見に光─AMEDが生体イメージング研究の成果を発表

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)は,産学共創基礎基盤研究プログラム(医療分野研究成果展開事業)における,生体イメージングに関する基盤研究の成果を,7月12日に行なわれた科学技術振興機構(JST)の新技術説明会にて発表した。

このプログラムの研究はヒトへの応用が可能なことが前提となっており,非侵襲・低侵襲で倫理的にも問題の無い技術として開発がすすめられている。

今回,発表された8件について概要をお伝えする。

■動脈硬化検出用近赤外蛍光プローブ
安定プラークと不安定プラーク 出所:JST
安定プラークと不安定プラーク
出所:JST

北海道大学教授の小川美香子氏は,動脈硬化を近赤外蛍光で検出する分子イメージングプローブを開発した。

動脈硬化のうち血管壁に粥腫と呼ばれる脂質が付着したものは不安定プラークと呼ばれる。不安定プラークが破綻すると心筋梗塞や脳梗塞の原因となるため,破綻の心配が少ない安定プラークと区別して検出することが望まれている。

不安定プラークからは白血球の1種であるマクロファージが浸潤するこが分かっており,小川氏はこのマクロファージと反応して近赤外蛍光を発するプローブを開発した。

動脈硬化を検出する従来技術として頸動脈エコーがあるが,プラークの不安定さまでは診断できなかった。小川氏は開発したプローブによってプラークの不安定さを規定する機能的な診断イメージング(分子イメージング)が可能になるとしている。

小川氏らは実際にこのプローブを用いてサルで実験を行なったが,残念ながら今回は体外から十分なイメージングができず,動脈の上の組織を切開して撮影する必要があったという。

この問題の原因として,カメラの感度やバックグラウンド蛍光の上昇などがあるとしており,今後,レーザー励起による感度上昇や,光音響イメージングを応用することで克服を目指したいとして,関連企業の協力を求めている。

■転移がんを迅速に見つける
近赤外光を可視光に変換できるLNP 出所:JST
近赤外光を可視光に変換できるLNP
出所:JST

外科手術によってがんを取り除いても,肝転移や腹膜転移を起こすことがある。こうした転移がんに対し,抗がん剤はがん細胞が少ないうちほど効果が高いことが分かっており,その早期発見法が求められている。

人体にアミノ酸の一種である5アミノレブリン酸(ALA)を投与すると,ミトコンドリア内で光感受性物質のひとつであるプロトポルフィリンⅨ(PPⅨ)へと合成される。通常細胞ではPPⅨはすぐに排出されるが,がん細胞はPPⅨが蓄積される。PPⅨは400 nmの光を当てると赤い蛍光を発するので,がん細胞の同定に利用されているが,この波長は組織への深達性が低く,ごく表層の診断にしか使えないという欠点があった。

京都府立医科大学教授の大辻英吾氏らは,近赤外光を可視光へと変換するランタニドナノ粒子(LNP)を用いてこれを克服する手法を考案した。LNPは低エネルギー光を高エネルギー光へと変換するアップコンバージョンにより近赤外光を可視光(赤+緑)へと変換することができる。

皮下組織にLNPを入れて生体への深達性が高い近赤外レーザーを当てると,体内でレーザー光はLNPにより可視光に変換される。今回の提案は,この変換光がPPⅨを励起して得られる赤色の蛍光を観察しようというもの。このとき,LNPからも赤色光が出るが,これはバンドパスフィルターで選別することができる。

腹膜播種を持つマウスを用いた実験では,体表からの近赤外光の照射でも,画像を積算することで体内からのLNPの蛍光を観察することができ,非侵襲な腹膜播種診断が可能なことが分かった。

さらに,LNPは蛍光と同時に活性酸素を出すため,がんの診断と同時に治療を行なうことが可能だという。研究グループではがんの種類によって適性の高い物質をLNPに修飾する技術も開発しており,その効果も確かめている。

今後は,LNPの毒性評価を十分に行なうと共に,より高感度なCCDカメラと画像処理により,弱い発光を積算して可視化する技術を確立したいとして,関係企業に協力を求めた。