量子ドットを用いたLCDの広色域化の有効性を示す-NS マテリアルズが提案

4K/8Kの実放送が当初の計画よりも前倒しで開始される予定となり,これに対応する関連製品の上市が進んでいる。こうした中にあって,ディスプレイの開発は,特に広色域化が重要なポイントとなっている。

「ITU-R BT.2020」はハイビジョンよりも色域が拡大した

その誘因となっているのが,次世代放送規格「ITU-R BT.2020」の色域が従来のハイビジョンよりも拡大していることであり,8K(スーパーハイビジョン)では基準三原色(カッコはハイビジョンの色域値)がR= 0.708 / 0.292(0.604/0.330),G=0.170/0.779(0.300/0.600),B=0.131/0.046(0.150/0.060)となる。

これらを達成するのに有効とされているものとしては,レーザや量子ドット蛍光体があげられている。このうち,量子ドット蛍光体を採用したものではソニーや米国Amazonがディスプレイを製品化しており,韓国LG Electronicsが量子ドットテレビとして2015 年1 月6 ~ 9 日まで米国ラスベガスで開催する「2015 Intenational CES」において出展すると発表した(2014 年12 月16日付)。いずれも広色域である特長を全面に打ち出し,差別化の源泉としているものだ。

NSマテリアルズの量子ドット蛍光体は30 nmのスペクトル半値幅としている

量子ドット蛍光体は数nm~数十nmサイズの化合物半導体ナノ粒子で,波長変換機能を持つ。粒径を小さくすることで短波長側へ,大きくすると長波長側へと発光を制御することができる。また,量子閉じ込め効果により高い吸収係数を持っているほか,スペクトル半値幅が狭いことから急峻な発光ピークと高い色純度の蛍光体を作り出すことも可能だ。

現在,量子ドット蛍光体の開発で強みを発揮しているのが,QD Vison やNanosys,NN-Labsなどの海外企業だが,国内でも産総研技術移転ベンチャーのNSマテリアルズが製品化し,参入を表明している。同社は,2014 年12 月16 日に自社の量子ドット蛍光体の優位性について会見を開き,量子ドット蛍光体を利用したディスプレイも公開した。

マイクロリアクター 目的の化学反応によって様々な形状のデザインがある

量子ドット蛍光体は,マイクロリアクターを用いた空間化学合成法で作製している。この合成法では精度良く任意の蛍光波長が作れ,均一な粒径分布によって鋭い発光ピークが得られるとし,また制御性が高いため,量子ドット自体の結晶性を高め,かつ独自の量子ドット構造を作り出すことができるという。これにより,付加価値の高い量子ドット蛍光体を供給することができるとしている。

用途は液晶ディスプレイのバックライトを想定しており,青色LEDとの組み合わせによって色域の拡大を狙う。既にセットアップメーカや関連部材メーカなどへの営業展開を進めているという。

ディスプレイへの実装方式は3 つが提案されており,1 つは量子ドット蛍光体を分散してシート状にしたQDSheetを導光板や拡散板の上に実装するOn Surface 方式,2 つ目は量子ドット蛍光体を詰めて棒状にしたQD StickによるOn Edge 方式,3 つ目が青色LEDに直接量子ドット蛍光体を充填するOn Chip方式がある。


QD SeetとQD Stick

QD Seet方式

QD Stick方式

 

QD on Chipの試作品

今回のデモンストレーションでは実際に量子ドット蛍光体を搭載した,On Edge方式の5 インチと42 インチの液晶ディスプレイ,On Surfase 方式の32 インチの液晶ディスプレイを公開した。On Chip 方式については現在開発中で,温度特性などの課題をクリアし,2016年頃の実用化を目指している。
 
 

QD Seetを用いた32インチディスプレイ(左)と市販のディスプレイ(右)

デモでは市販の液晶ディスプレイを改造し,5 インチディスプレイには断面サイズ0.5 mm×0.5 mm,42 インチディスプレイには断面サイズが2.5mm×1.0 mmのQD Stickを組み込んだ。32 インチディスプレイに組み込んだのは厚み約0.3 mmのQD Sheet で,シートは最大85 インチまで対応できるとしている。

各色域だが,5 インチディスプレイはNTSC 比106%,42 インチディスプレイは同109%,ITU-R BT.2020規格では従来の白色LEDバックライトの52%に対して82%となっている。32インチディスプレイに関してはITU-RBT.2020 規格で81%となっているが,これらはカラーフィルタを最適化することで100%にできるとしている。

カラーフィルタの調整で BT.2020 を100%カバーすることも可能という

量子ドット蛍光体の高い吸収係数と急峻な発光ピークは,低消費電力化にもつなげることができる。同社の量子ドット蛍光体が強みとして強調するのは広色域化と低消費電力化を両立できることだとしている。ディスプレイ開発では省エネ化への対応も重要となっている。一般的に色純度と消費電力とはトレードオフの関係とされているが,量子ドット蛍光体ではこれを解消できるため,その有用性が高いと期待されている。
 

急峻な発光スペクトルを得ることができる

一方で懸念されているのが,カドミウムといった毒性を持つ重金属が含まれていることだが,同社では「欧州RoHsが規制している範囲内のため,安全性に問題はない」としている。さらに重金属フリーの量子ドット蛍光体の開発を進めていることも明らかにした。◇

この取材の動画はコチラ