慶大が開発する,「接触体験が可能な」裸眼3Dディスプレイ

何度か訪れては消えている3Dディスプレイブームだが,普及が進まない理由の一つとして,3D眼鏡の存在がある。家庭でテレビを見るのにいちいち専用眼鏡をかけるという行為は,消費者にとって非常に煩わしい。

これを解決する手段として様々な裸眼ディスプレイの開発が進められている。慶応大学の舘研究室は立体映像に加えて「接触体験が可能な」空中投影裸眼3Dディスプレイ「HaptoMIRAGE」を開発した。
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「HaptoMIRAGE」の特長は,映像がディスプレイ本体の手前に投影されるため,手で触れられるような位置に立体像を得ることができる点にある。その構造は,液晶ディスプレイとレンチキュラーレンズの間に,シャッタとなる透明液晶ディスプレイを挟むというシンプルなものだ。

22インチの液晶ディスプレイには,通常のアクティブ方式の3Dディスプレイと同じく,左目用と右目用の映像を60Hzで交互に表示する。この映像に同期したシャッタを透明ディスプレイに表示し,左右の視線を交互に遮ることで,裸眼でも交互に視差映像を見ることができる。このとき立体映像は,フレネルレンズと観察者の間に浮かぶように結像する。


シャッタは常に観察者の眼の位置に対して適切に表示されるが,その位置はマイクロソフト社の赤外線センサ「Kinect」を用いて捉えた,観察者の頭部の位置から算出している。一定の範囲内ならば観察者の頭部の動きにリアルタイムで追従してシャッタ位置を調整できるので,立ち位置によって立体映像の見え具合を変化させることができる。

さらにKinectは手の動きも検出しており,観察者が立体映像に触れるように手を伸ばせば,手の動きに合わせて映像を動かすことができる。視点の位置を変えつつ映像に疑似的に触れることで,より高い没入感を得ることができる。

「HaptoMIRAGE」は上記のシステム3組から構成されており,3人同時に同じ立体映像をそれぞれ別の方向から観察することができる。家庭用3Dテレビのみならず,博物館などの学術用途や業務用ゲーム機にも適した技術と言える。また赤外線マーカを取り付けたペンを使い,このディスプレイ上に立体の絵を描くという試みも行なっており,今後の発展が楽しみな技術だ。

慶応大学 舘研究室HP