遠赤外線領域として分類されている0.1〜10THzの周波数帯の電磁波は,様々な物質において特異な透過特性を持っている。これにより,物質の分析や非破壊検査などへの応用が進んでいる。
近年,光源や検出器,分光システム,イメージング技術の発展は目覚しく,いまでは分光分析装置やカメラなども市販されている。さらには超高速無線通信への応用も可能になるとして注目されている。
このような赤外領域での自由な光波制御技術は確立されているかのように思われているが,偏光を制御する技術はあまりないという。光軸を変えることなく偏光を制御する受動素子として位相板があるが,特に遠中赤外線領域では透明な位相板の機能を生み出せる材料がないため,簡便に使える位相板がなかった。
この実現を目指して研究を進めたのが,大阪大学大学院基礎工学研究科・准教授の永井正也氏,同教授の芦田昌明氏,それにアイシン精機の研究グループだ。今回,金属板を等間隔に並べただけでテラヘルツ周波数帯の電磁波の偏光を制御する技術を共同開発した。
研究グループは,マイクロ波領域の導波路技術をテラヘルツ周波数領域に拡張することで位相板が構築できることに着目。エッチングによって10mm×50mm×0.05mmのステンレス板に直径66μm,間隔100μmの開口を作製し,間隔1.5mmでスペーサを用いて積層させた金属平行平板導波路の位相板を構築した※。
作製にあたっては,金属平行平板間に電磁波を入射すると,その偏光の向きによって伝播する電磁波の位相の進み方が異なるという,この位相変化がテラヘルツ周波数領域で最適になるようにした。
作製した位相板はシンプルな構造ながら,周波数0.67〜1.21THzの周波数帯で偏光が制御できることを実証しており,実際にTHz時間領域分光を用いて性能を評価したという※。
この位相板は,原理的には大面積,かつ低価格で作製することができるとし,また開口や平板間の距離を制御することによって設計周波数を中赤外領域まで変えることもできるとしている。これにより,テラヘルツ周波数帯のアイソレータや偏光に敏感な高感度赤外光センシングなどへの応用が期待されている。◇
※出典・提供:第24回光物性研究会予稿集より「構造のある金属平板を用いたTHzアクロマート波長板」−大阪大学大学院基礎工学研究科准教授・永井正也氏