一般社団法人 メディカル・イメージング・コンソーシアム(MIC)は1月24日,スーパーハイビジョン(8K)を用いた内視鏡(腹腔鏡)による動物実験に成功したと発表した。実験はブタを使い,内視鏡手術を専門とする外科医らによって腹腔の観察・手術が行なわれた。
鉗子などの手術器具を腹部に挿入して手術を行なう腹腔鏡手術は,一般的な開腹手術と比べて傷が小さく,患者の負担が少なくて済むことから多くの手術で導入されてきている。しかし,狭いスペースで内視鏡や鉗子を操作しなければならないため,時に器具同士が干渉するなど,術野の確保が執刀医にとって大きなストレスになっていた。
今回の実験に使用した8K内視鏡は,現在主流であるハイビジョン(HD)内視鏡の16倍の解像度を持つ。多少画像を拡大しても画質が落ちないことから,少し引いた場所に置くことで広範囲な術野を確保すると共に,内視鏡を動かさなくても,患部のアップを見ることも可能なのが最大のメリットだという。
今回の実験についてMIC理事長の千葉敏雄氏(国立成育医療研究センター臨床研究センター副センター長)は「実験は思った以上の成功を収めた」とし,これまでの内視鏡では見えなかった細部の観察ができたことを成果に挙げた。具体的には,主に眼科の顕微鏡手術に用いられる10-0と呼ばれる糸(直径0.020~0.029mm)をモニタ上ではっきりと確認することに成功した。
これは,内視鏡モニタをそのままTV顕微鏡として使えることを意味する。内視鏡で微細手術が可能になるだけでなく,一般の手術でも手術用ルーペが不要になり,医師の負担が大幅に軽減される。また,実際に執刀した医師によれば精細な8K画像により,血管や神経,リンパ節などの境界の判別や,がん組織と正常組織との見分けがしやすくなるので,剥離や摘出などの操作も楽になるという。
一方,実用化に向けた課題として8Kカメラの小型化がある。今回使用した8Kカメラは重さが2.5kgと,手術現場で取り回すには重すぎる。これについて千葉氏は「8Kカメラも2002年には80kgだったことを考えれば,この先数年で確実に小型化ができる」とし,副理事長の谷岡健吉氏(元NHK放送技術研究所所長)も「ロボットアームを用いるという方法もある」として早期の実現に自信を見せた。
その他にも,腹腔鏡の8Kカメラへの最適化,8Kカメラの感度向上などといった課題が残っているが,執刀した医師の中には「早く人体でも試してみたい」という声もあり,「早ければ半年を目途に臨床試験を行ないたい」(千葉氏)とするなど,今後もMICの会員の協力を得ながら,開発を急ぐ考えだ。
今回の実験は,日立国際電気が開発した単板式の8Kカメラに,新興光器製作所の腹腔鏡を取り付けて行なわれた。出力はシャープの8Kモニタが手術室に入らなかったため,アストロデザインの4Kモニタに切り出されたほか,録画も同社の8Kレコーダが用いられた。