3. アプリケーション別
プロセス分光法はメディカルイメージング,化学品や医薬の製造管理など,多くの用途で用いられている。分光法だけ取り出せば,その応用はさらに多様である。分光法とプロセス分光法の差は,後者が継続的に改善を繰り返す進行中のプロセスそのものを指すことにある。
インプロセス分光法は,温度,濃度,混合,曝気,冷却時間などあらゆる項目において,あらかじめ定められた状態で処理が行われるよう製造工程を監視する。
例えば,プロセス分光法は熱応力を事前に特定し,管理工程を自動起動する,あるいはオペレータに警告を送ることで,エラーを未然に防ぎ,その被害を最小限に食い止め,効率を最大化することができる。
プロセス分光法の詳細内容は,それぞれのアプリケーションによって大きく異なる。例えば医療用モニタリングと朝食用シリアル製造では当然ながら全く違う仕様が必要となる。
しかしながら,プロセス分光法の工程自体はどの場合も大きくは変わらない。プロセス分光法はフィードバックループを持つシステムの一部であることが理想である。フィードバックループは実際のオペレーションの情報を収集し,継続的な改善のためにその情報を活用する。そうした改善は,例外処理として,あるいは,特定の条件下で徐々に発生する。
例えば,条件Aはそれ自体では問題ではないが,条件B,C,Dと組み合わさった場合に,規格外の製造が起きる,といったパターンを認識した場合,全プロセスにわたる見直しが行われる。多様な変数を常に同時に分析,検討することができるコンピュータシステムならではの強みである。
3.1 医用画像向けプロセス分光法
医療用のプロセス分光法においてプロセスの改善は重要な可能性を示唆している。疾患の特定,疾患モニタリングの高度化,あるいはオーダーメイド医療の効果向上が見込めるからである。
多様なタイプの分光法が幅広い医療分野で利用されている。アルツハイマー疾患の診断法として用いられる核磁気共鳴分光法は,脳内のグルタミン酸塩を非侵襲的に特定する。グルタミン酸塩による興奮毒性は神経系疾患あるいは脳卒中やてんかん発作の患者に見られる一般的な状態であると信じられている。
また,特殊な蛍光分析を用いて,静脈投与の直前など特定の時点において,投薬効果を検証するという利用方法も考案されている。化学療法など強力な薬剤を用いる場合,不適切な薬剤の処方,あるいは正しくない服用について特に留意する必要がある。一瞬の変化,あるいは濃度の差が,文字通り生死を分けることさえありうる。
蛍光分光法はレーザー光,あるいは注入された蛍光物質との組み合わせで,腫瘍の位置特定にも利用される。
また,細胞レベルの状態を非侵襲的に観察するためにラマン分光法が利用される。
世界中の医科大学,研究機関は,強力なコンピューティング能力とアルゴリズムと組み合わせた分光分析システムを積極的に導入し,その有効性を証明している。
最新の研究機関,あるいは治療設備のプロセスを医療用プロセス分光システムに学習させ,大規模機関で洗練されたやり方をより小規模な施設で取り入れる,という可能性もある。医療用プロセス分光システムは学習されたデータセットから,ターゲットとする症例に最も適した条件を理論的かつ概念的に導きだすことができる。
病歴データを収集し,経過を観察することで,実地試験における真の経験が蓄積されてゆく。ラマン分光法は,食道がん,膀胱がん,脳腫瘍,乳がんの早期の非侵襲診断や,冠動脈の疾患,血液関連の症状を特定するために使われている。
中赤外分光法は,何らかの疾患の原因になりそうな状態を発見するため予防的に利用される。例えば,狂牛病として知られる感染性海綿状脳症の非侵襲的な特定,非侵襲的に病理組織の変化を観察する組織病理学などである。中でも,前がん状態,がん状隊の組織病理学は分光分析技術を利用するメリットが大きい。
フーリエ変換赤外分光光度計はカンジダ菌,またはイースト菌の特定や区分など様々な医療用アプリケーションで用いられる。イースト菌は人間の肌や粘膜で見つかるが,危険性の高い患者にとっては,重大な,時には命に関わる合併症を引き起こす原因になる。