3. 用いられる技術
「大気の窓」は,地上で利用可能な赤外線波長を指す。赤外線は,近赤外線(NIR, 0.8−1.1μm),短波長赤外線(SWIR, 0.9−2.5μm),中波長赤外線(MWIR,3−5μm),長波長赤外線(LWIR, 8−12μm),超長波長赤外線(VLWIR, >12μm)に分類される。
新素材,新しいデザインなど,赤外線イメージングにおける技術開発は日進月歩で進んでいる。例えば,化合物半導体のバンドギャップエンジニアリング技術,オプトエレクトロニクス関連の材質科学の進歩から,汎用性が高く,高性能かつ安価な製品を実現する新たなアプローチが可能となっている。
図1は赤外線画像検出器に利用される材料を示している。
HgCdTeは,水銀,カドミウム,テルルからなる三元合金である。Mercury Cadmium Tellurideから,MCT,CMTとも呼ばれる。スペクトル領域は短波長赤外線から長波長赤外線,最大画素数は4096×4096,画素ピッチは10μmである。
・高速フレームレートへの適性
素材の堆積が難しいため,HgCdTeを用いた機器の製造には高い次元のノウハウが必要とされる。このため,HgCdTe FPAの大量生産能力を持つのは数社のメーカーのみである。
軍事用途では2色のアレイを持つ検出器も用いられている。合金組成を変え,異なる波長に調整されたHgCdTeを二層化し,二つの波長を同時に検出することが可能である。
InSbは77 Kで5.4μmのバンドギャップを持つ直接遷移型のⅢ-Ⅴ族半導体である。InSbを用いた検出器の検出対象は短波長で,最大画素数は4096×4096,画素ピッチは15μmである。InSbは,空間的均一性,低暗電流,画像品質といった特性から多様な用途を持っている。主な欠点は77 Kまで冷却が必要なことであるが,最近ではEpi-InSbなど100 K程度での運用が可能となっている。
InSbの弱点を補うため,代替構造を持つデバイスが開発されている。インジウムベースの障壁型検出器がこれにあたる。ダイオードと似たような働きを持つこの新しいデバイスは,光結合層の代わりに単極障壁の特性を利用する。インジウムベースの障壁型検出器は,光電流の流れを阻害することなく暗電流を減らし,表面漏れ電流を抑制することができる。また,従来のInSb検出器よりも高い温度での運用が可能となる。