1. はじめに
量子カスケードレーザー(QCL)の市場は2015年から2020にかけて堅調なCAGR(複合年間成長率)で推移し,2015年の2億ドルから,2020年には5億6700万ドルの規模に成長すると予測される。
今回は,光学・フォトニクス市場を専門とする調査会社Tematysがまとめた調査レポート「カスケードレーザーのコンポーネント&システム:技術および市場動向」から一部を紹介する。
2. 概要
最初の量子カスケードレーザーは当時のベル研究所でFaistらによって20年前に開発された。その後のカスケードレーザーの進化は目覚ましく,特に中赤外領域における応用で世間の注目を集めている。インターバンドカスケードレーザーは3−6μm領域におけるコストを大幅に削減すると期待されている。一方,量子カスケードレーザーは,高出力で3−300μmという幅広い領域に対応する。
産業用,環境用,ライフサイエンス用(Daylight SolutionsのSpero),自動車用(堀場製作所のMexa-1400QL-NX)など多様な市場でのカスケードレーザーの導入が加速している。
カスケードレーザーの応用範囲は広いが,中赤外線領域以外では,OPO,VCSEL,固体レーザー,ガスレーザー,ファイバーレーザーなど,強力な競合技術が多数存在する。言い換えれば,中赤外線領域を制することがカスケードレーザー技術の成功につながる可能性が高い。
3. カスケードレーザーの種類:QCL,ICL
カスケードレーザーには量子カスケードレーザー,インターバンドカスケードレーザーの二種類がある。
3.1 量子カスケードレーザー
量子カスケードレーザーはIII-V族半導体(化合物半導体)をベースとしている。最も普及しているのは,GaAs/AlGaAs,InGaAs/InAlAs/InPである。これらは3−24μmの中赤外領域,あるいは60−300μmのテラヘルツ領域で発振する。QCLの波長範囲を3μm以下,あるいは300μm以上に広げる研究開発も行われている。実現すれば,MHz,GHzの高速エレクトロニクスと,UV,近赤外線領域の光通信の間を埋める存在になるとされている。
実験では室温における連続発振の出力が5.1 Wまで確認されてはいるが,実際には,典型的な量子カスケードレーザーの光出力は500 mW以下である。QCLの波長範囲は,設計,媒質,その他のパラメーターにより可変である。例えば,QCLの利得媒体を外部キャビティの一部として構成し,回析格子を用いて波長のチューニングを実現することも可能である。
3.2 インターバンドカスケードレーザー
インターバンドカスケードレーザーはInAs,GaSb,AlSbをベースとし,典型的にはGaSb,またはInAsの基板上で成長する。ICLは室温において中赤外領域3−6μmで発振する。冷却器で257 Kまで温度を下げると波長を12μmまでのばすことができる。
ICLはその他の中赤外線半導体レーザーと比較すると,必要とする入力が低いという特徴を持つ。例えばタイプ IIのトランジションICLの閾値は1 kW/cm2と低く,10 kW/cm2以上のQCLと比較すると10分の1以下である。こういった理由からICLは,持ち運び可能で,バッテリーで動作するような中赤外線分光アプリケーションに適しているとされる。